「ボーン・レガシー」を作った意味はどこにある?

リュック・ベッソンという製作者(監督ではなく)を侮ってはいけない。まさかアクション映画なんかやるはずがないだろうというイメージの役者を、見事に出演させヒットさせてしまう。そう「96時間」のリアム・ニーソンのことだが、続いて白羽の矢を立てたのがガイ・ピアース。まだ予告編とメインビジュアルだけだが、「ロックアウト」は、明らかに今まで彼のイメージではなく、SFアクション映画のヒーローの様ではないか!次に狙われるのはザック・エフロンあたりか?

このようにハリウッドの俳優たちは、固定されたイメージを嫌って、大胆に役柄のイメージチェンジを図るケースがよくある。ここ10年での好例はマット・デイモン。「グッド・ウィル・ハンティング」で見たときは、爽やかな青春映画俳優だったが、その彼が「ボーン・アイデンティティー」で見事にアクション俳優に変換を遂げた時には、驚きながらも“それでいいじゃん!”という感想だった。それから後の「ボーン・シリーズ」の大ヒットの連発は記憶に新しい。

「〜アルティメイタム」の出演でシリーズを終えたマット・デイモンが、もうジェイソン・ボーンを演じないとなっても、ユニバーサルは、そのドル箱シリーズを手放したくなかったのだろう。同じように組織に作られ、裏切られた別のスパイ、アーロン・クロスの物語を生み出した。それが「ボーン・レガシー」だ。ジェイソン・ボーンの大暴れの裏で進行していたスパイ養成と、そのプロジェクト消滅に巻き込まれる一人のスパイのアクション映画だ。

主演はジェレミー・レナー。「ハート・ロッカー」で、突然出てきた感のある俳優だが、ベン・アフレック監督作品「ザ・タウン」で見事な演技を見せ、実力を示した。「アベンジャーズ」でのホークアイ役は個人的には不満だったので、この「〜レガシー」のアクション演技には大満足である。しかし、この映画が「ボーン・シリーズ」である意味は、結果的に見出すことが出来ず、その名を名のる必要性は感じられない。単に組織に裏切られて危機を迎えるアーロン・クロスというスパイの逃亡劇ではないか。

「〜アルティメイタム」にも出演しているジョアン・アレンアルバート・フィニー、そしてデヴィッド・ストラザーンらの顔も拝むものの、そのボーンとの関係性を抜きにすれば、これは見ていて飽きないアクション映画になっている。ラストの組織が送り込んできた暗殺者との、バイクでのチェイスシーンは見事な迫力で、ちゃんと人の手が掛かっている、デジタル処理に頼っていないアクションとなっている。

そして、何と言っても見所はスッキリと引き締まったレイチェル・ワイズだ。最近の彼女の印象はどちらかと言えばふっくらだった(昨年見たのは「アレクサンドリア」)が、私生活でのダニエル・クレイグ(マッチョな007ですからね!)の影響からか、この映画では見違えるほどシェイプされていて、そのタンクトップ姿は美しい。よってラストの闘う女子と化してのアクションも、まったく違和感がないのだ。彼女が最初は単に暗殺者に怯える存在だったのに、徐々に度胸が付いてくる様は、この映画の売りとなっているぞ!ダーレン・アロノフスキーと別れて良かったねぇ。

まぁ「ボーン・シリーズ」の生みの親の一人トニー・ギルロイが全権把握していれば、これぐらい出来て当然か。でも本音を言えば(皆そうでしょ!)ジェイソン・ボーンの第4作目が早く見たいんだよなぁ。