「ジャッキー・コーガン」まともなのは殺し屋だけって?

この映画には黒人が二人登場する。1人はホテルにやって来た娼婦。そしてもう1人はバラク・オバマだ(TV画面だが)。そう、現大統領である。それ以外の登場人物たちは、すべて白人で、かたやギャングの上層部、他はイかれたプア・ホワイトばかりだ。それが、この映画をひと言で現している。すなわち(現在は株価好調で上向きだが)アメリカ経済の不調の波にさらされ、生きていけなくなって行くのは、ダメな白人ばかりだと(それも男だけ、という様に女性の登場人物なし)断言しているのである。

原題名は『KILLING THEM SOFTLY』(名曲「やさしく歌って『KILLING ME SOFTLY』にかけているのね)という、なんともシャレが効いている。ドンづまりの白人ふたりがマフィアの賭博金を奪ったことへの制裁として、ブラッド・ピットが演じる暗殺者が彼等を殺すだけの映画だが、実はまともな人間は、このジャッキーという暗殺者だけということが、この作品をユニークなものにしている。

“殺される側は必ず命乞いして、泣くんだよ、それで自分じゃやりたくないんだ。俺は優しく殺してあげたいのに”と、ジャッキーは、かつては凄腕だった暗殺者を雇うものの、そいつは今やアル中で使い物にならないと分かり、結局、自分で(命乞いのスキも与えず)殺して、上からはしっかりと金を取る。そう、こんなアメリカに誰が頼れるか、生き残りたければ頼るのは自分だけと言い切る、そのニコリともしないブラッド・ピットが魅力的である。

二人組のプア・ホワイト、アル中の暗殺者らの周りにあるものはクスリと女と酒だけだ。そのダメっぷりを現すため、ダラダラとえげつない会話のシーン(女とヤる話ばかり)がタランティーノばりに展開され、いささか閉口する。この辺の会話劇をどう見るかで評価の分かれる映画ですね。そんなインディペンデント臭たっぷりだから、当然メジャー作品ではなく、ブラッド・ピットのプロダクション『プランB』製作。

しかし、映画ファンには魅力的なオッさんキャストが多数登場だ。ギャング役には欠かせないレイ・リオッタ、アル中の殺し屋にはジェームズ・ガンドルフィーニ、ジャッキーへ仕事を依頼するのはリチャード・ジェンキンス、そしてジャッキーの親分にサム・シェパードだ。特にジェンキンスは先日見た「キャビン」にも、とっても変な役で出ていたので“インディペンデント作、出まくり!”の感が強いなぁ。

同じブラッド・ピット出演作の「ジェシー・ジェームズの暗殺」のアンドリュー・ドミニクの監督作品だが、その「ジェシー〜」は全くノレなかったが、こちらは寒々しい風景と、そこにしか生きられないダメ男たちを描くことに成功して見るべき価値のある映画になりましたね。