「テッド」のヒットについての日米の違いは?

今も新宿シネマカリテで上映しているのに、いささかビックリだった「テッド」について、遅ればせながら、ちょっとだけ…。

久しぶりに配給会社の宣伝戦略が功を奏した形で興行が盛り上がりましたねぇ。クマのぬいぐるみがダーティワードを喋るという映像だけに絞り込んで、アメリカ大ヒットのコメディだということ以外は、どんな話か誰が出ているのかなどは一切触れず、それ以上知りたければ映画館に行くっきゃないという戦略であった。

コメディというジャンルはアメリカで大ヒットしても、日本では公開されにくいケースがある。笑いのツボの日米の差で『公開してもヒットを望めない、よって宣伝費かけるだけ無駄』と判断してダイレクトでDVD化してしまうのだ。同じユニバーサル作品のアメリカ大ヒットの「ブライズメイズ」なども、よく公開されたなぁという感想しかない。よって、この「テッド」も、もしかして未公開作になるのかな?と思ってしまっていた。

公開初日にシネコンに駆けつけた人の話では、同日公開の山田洋次監督の「東京家族」より盛況だったとのこと。そして2週目からは、そのシネコン内の一番大きなスクリーンに移動したとのこと。確かに平日夜のバルト9でも9割がた埋まっていたのにビックリだった。

では、ヒットの要因は?その要因が日米同じなのか?

アメリカでは誰が出ているかが重要。主演はマーク・ウォールバーグだ。「ファイター」でオスカーに手が届きそうだった俳優が、このようなコメディに出ることに驚く。そして共演は「ブラックスワン」のミア・クニス。そこに全く触れない、触れても仕方がない日本ではひたすらテッドと言う名のぬいぐるみの姿だけだった。しかし作品のレイティングはR15?それは映画を見れば分かること。可愛いぬいぐるみ目当てで来た女性客は『ドン引き!』となってしまうかもしれんなぁと思っていたが、若い女性客は何の抵抗もなく笑っているようですな。

登場人物たちのダーティワード、ドラッグ、SEX、サイコ的犯罪などおよそぬいぐるみと噛み合わない展開を受け入れられる若者はについては、日米同様の笑いのツボだろう。確かに見終わった若いアベックの『チョー面白かった!』の感想は間違いじゃないだろう。しかしアメリカでヒットした要因“1985年から少しも大人になれず、そのカルチャーにどっぷりハマり続けているダメな大人”というツボには付いて来られないだろう(まぁ、仕方がない)。

おそらくアメリカで一番受けた場面は「フラッシュゴードン」の主演俳優サム・ジョーンズの登場場面じゃないだろうか。ここがミソ、もしこれがマーク・ハミルで「スターウォーズ」だったら、そんなに笑いは取れないし、悲愴感の方が先に立ってしまうだろう。この微妙な違い、そのサジ加減が絶妙である。himself、herselfがこんなに多いのに、茶化せる相手ばかりのバランス感覚だ。

この本人登場(ノラ、トム・スケリットライアン・レイノルズなど)とジョニー・カーソン、MTVのステファニー、ブリジット・ジョーンズなど、TV画面内の登場の小ネタも効いている。この85年から90年代のカルチャーに翻弄され続ける大人たちの無様ぶりが可笑しい。そもそも85年こそ「バック・トゥ・ザ・フューチャー」という、過去のカルチャーとのギャップで『受けた』先輩格の作品が産まれた年ではないか。

こうした小ネタが、意外や嫌味なく散りばめられていて、ダーティな部分を緩和してしまった訳だ。何と、最後にテッドが逃げ込むところは(どっかで見たことあるぞぉ、そうだ!「ザ・タウン」だ!で小躍りしてしまった!)、ボストン・レッドソックスの本拠地フェンウェイ・パーク。メジャーリーグ好きとしては、トドメを刺されてしまいました。

「ジャッキー・コーガン」まともなのは殺し屋だけって?

この映画には黒人が二人登場する。1人はホテルにやって来た娼婦。そしてもう1人はバラク・オバマだ(TV画面だが)。そう、現大統領である。それ以外の登場人物たちは、すべて白人で、かたやギャングの上層部、他はイかれたプア・ホワイトばかりだ。それが、この映画をひと言で現している。すなわち(現在は株価好調で上向きだが)アメリカ経済の不調の波にさらされ、生きていけなくなって行くのは、ダメな白人ばかりだと(それも男だけ、という様に女性の登場人物なし)断言しているのである。

原題名は『KILLING THEM SOFTLY』(名曲「やさしく歌って『KILLING ME SOFTLY』にかけているのね)という、なんともシャレが効いている。ドンづまりの白人ふたりがマフィアの賭博金を奪ったことへの制裁として、ブラッド・ピットが演じる暗殺者が彼等を殺すだけの映画だが、実はまともな人間は、このジャッキーという暗殺者だけということが、この作品をユニークなものにしている。

“殺される側は必ず命乞いして、泣くんだよ、それで自分じゃやりたくないんだ。俺は優しく殺してあげたいのに”と、ジャッキーは、かつては凄腕だった暗殺者を雇うものの、そいつは今やアル中で使い物にならないと分かり、結局、自分で(命乞いのスキも与えず)殺して、上からはしっかりと金を取る。そう、こんなアメリカに誰が頼れるか、生き残りたければ頼るのは自分だけと言い切る、そのニコリともしないブラッド・ピットが魅力的である。

二人組のプア・ホワイト、アル中の暗殺者らの周りにあるものはクスリと女と酒だけだ。そのダメっぷりを現すため、ダラダラとえげつない会話のシーン(女とヤる話ばかり)がタランティーノばりに展開され、いささか閉口する。この辺の会話劇をどう見るかで評価の分かれる映画ですね。そんなインディペンデント臭たっぷりだから、当然メジャー作品ではなく、ブラッド・ピットのプロダクション『プランB』製作。

しかし、映画ファンには魅力的なオッさんキャストが多数登場だ。ギャング役には欠かせないレイ・リオッタ、アル中の殺し屋にはジェームズ・ガンドルフィーニ、ジャッキーへ仕事を依頼するのはリチャード・ジェンキンス、そしてジャッキーの親分にサム・シェパードだ。特にジェンキンスは先日見た「キャビン」にも、とっても変な役で出ていたので“インディペンデント作、出まくり!”の感が強いなぁ。

同じブラッド・ピット出演作の「ジェシー・ジェームズの暗殺」のアンドリュー・ドミニクの監督作品だが、その「ジェシー〜」は全くノレなかったが、こちらは寒々しい風景と、そこにしか生きられないダメ男たちを描くことに成功して見るべき価値のある映画になりましたね。

2012年度個人的ベスト10発表!

まったくの個人的事情から2ヶ月あまり更新をしませんでした。数少ないとは思いますが、私のブログの何人かの読者の人たちに『更新ないですね』と言われましたが、なかなか書くモチベーションを維持出来ず、結局年越しとなってのようやくの更新になってしまいました。その間なんとか作品は見れてはいましたが(それでもペースダウンです!)、それを書いて残す作業が出来なかった訳です。

年が明け2013年となり、ようやく少し心が落ち着き、映画に向き合わなければと覚悟を決めましたので、まずは2012年を振り返り、恒例のベスト10を発表したいと思います。しかし2012年で見れたのが、旧作の鑑賞も含め170本と少ないため、本当に選んでいいのか?、漏れている作品が相当あるのじゃないか、と言う思いがあります。ただ、もしかしたら2013年は更に見られない状況なので、各10本が選べないかもしれないと思い、最後のベスト10という意味で発表させていただきます。

●外国映画

1 「007 スカイフォール」  
2 「アルゴ」          
3 「ファミリー・ツリー」    
4 「ダークナイト ライジング」  
5 「人生の特等席」       
6 「ヒューゴの不思議な発明」  
7 「戦火の馬」         
8 「ドラゴンタトゥーの女」   
9 「ソハの地下水道」      
10「J・エドガー」 

●日本映画

1 「アウトレイジ ビヨンド
2 「桐島、部活やめるってよ
3 「ももへの手紙」
4 「天地明察
5 「あなたへ」
6 「わが母の記
7 「苦役列車
8 「愛と誠」
9 「ふがいない僕は空を見た
10「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望
                  
選出の基準は年々シンプルになり、要するにどれだけ面白い話を魅力的な登場人物によって見せているか、だけです。まぁ、そこに作家性と映像美が加われば、もっと良いというものですね。驚いたことに興行成績とは裏腹に、洋画の方が豊作の年で選出に苦労するという、近年では稀な状況でした。「ミッドナイト・イン・パリ」「ヘルプ」「ペントハウス」「リンカーン弁護士」「ウーマン・イン・ブラック」を入れてベスト15にしたい程でした。

考えてみれば、どうしてもアメリカ映画を楽しみ,、ヨーロッパ圏(「007」は別でしょ)の作品は見ても心に強く残るものがなくなってしまっているようです。おそらくキネ旬でもベスト10に入るでしょう「最強のふたり」にしても“退屈はしないし、楽しめるけど…”という程度になっていますね。まぁ、オスカーにもノミネートされた「愛・アムール」は2013年のヨーロッパ圏では見たい作品ですけどね。

洋画については、1位〜7位まではアッサリというか、コレしか無いというかスンナリです。こうしてみると一番活躍した男優はダニエル・クレイグということになりますね。イーストウッドは監督作品より出演作品の方が、メジャーリーグものという事もありシックリきましたし、何と言っても「マネーボール」が描き出したドラマの正反対の視点というところが大いに気に入りました。

逆に邦画の方が2012年に関して言えば、洋画の「007 スカイフォール」のような頭抜けた作品はなく、2位〜5位は入れ替えても違和感は無い状態です。「アウトレイジ〜」は“ヤクザものの続編はこうやるんだ”という監督の頭の良さが際立つもので、観客層への意識や話の広げ方など映像で作り出す前の机上での熟考が見事。そこにあのラストの鮮やかさを見せられては文句なしでしょう。久しぶりに興行力と作家性が両立した作品だと思いますよ。10位はTVも含むシリーズに感謝して。「北のカナリアたち」「るろうに剣心」「鍵泥棒のメソッド」が漏れた。

以下は個人賞です。

外国映画監督賞 クリストファー・ノーラン
本当はベン・アフレックでも良いのですが、やはり3作を作り上げ、納得の大団円のラストを見せ、アメコミ映画というカテゴリーの概念を変えてしまったという力量には感服です。まぁ、ベンはこれからも多くの見ごたえのある映画を撮ってくれると期待してますので、いずれオスカーも手にするでしょうから、それからでも遅くはない!

日本映画監督賞 三池崇史
北野武監督以上に、『俺はコレがやりたいんだ!』という強い作家のエゴが発揮されているという点で、「愛と誠」の三池監督が圧倒的だ。まったく振り幅が激しい監督だが、今回は見事に剛球という名の変化球を投げ、決まりましたね。

日本映画主演女優賞 吉永小百合
個人的には沢尻エリカにしたいのだが、「ヘルタースケルター」の彼女は演技というより、存在という部分が大きいので、ここはやはり吉永さんで納得しよう。スター映画というものは見ていて気持ちがイイ!その周りを若い有能な俳優陣で固める方程式は「あなたへ」にも当てはまり安心して楽しめるのですね。

日本映画主演男優賞 高倉健
吉永さんの「北のカナリアたち」以上に健さんの「あなたへ」は究極のスター映画。作品が公開されたことだけでも嬉しくって、それだけで充分。それだけ邦画界には『高倉健』という存在は必要なのだ。この映画はさらに脇で大滝秀治さんを堪能しただけでなく、綾瀬はるか三浦貴大という若き俳優陣との共演という部分も邦画界にとっても大きな意味があるのだった。

日本映画助演女優賞 宮粼あおい
あおいちゃんは本来は主演女優であって欲しいのだが、2012年に限って言えば(本当は合わせ技は嫌なのだが)「天地明察」と「わが母の記」の2本が見事な助演ぶりで、彼女以外に考えられなかったです。「苦役列車」での前田敦子も頑張っていて、個人的には嬉しかったが、あっちゃんについてはこれからに期待して、今回は見送りです。

日本映画助演男優賞 
本当に山下敦弘は、魅力的な助演男優を見せてくれる監督だと今回の「苦役列車」でも感心。マキタスポーツの好演があったからこそのラストシーンでしょう。この存在感には「終の信託」の後半を請け負った大沢たかおも負けてしまいました!

という主要6部門ですが、2012年だけは特別に新人賞を設定させてください。「桐島〜」に出ていて強い印象を残した東出昌大くんに、今後の期待を込めて新人賞を挙げたいと思います。タッパもそうだが、久し振りの大型新人男優という印象です。モデル出身の先輩、阿部寛のようになってくれると嬉しいのです!

以上、ベスト10と個人賞でした!

「アルゴ」には、映画の醍醐味がすべて詰まっている!

面白いと感じる映画の、その条件はなんであろう。個人で感じる要素は様々あるだろうが、まずは以下の3点だと言えるのではないだろうか。
①語られるお話が面白い
②映し出されている映像が、見応えがある
③演じている俳優、そしてその顔が映画の中で魅力的である

なぁ〜んだ、それって結局のところ日本映画の父と呼ばれる牧野省三の言った「1.スジ、2.ヌケ、3.動作」じゃないか!そう、映画史に名を残している名作は、ほとんどがこの条件を満たしているだろう。しかし、映画を見終わった瞬間に“全部入っているぞ!面白い!”と言える作品に出会う確率はそうないのも事実だ。特に洋画は最近そうした感覚になる作品が少ないと感じていた。

そんな時に登場したのがベン・アフレック監督第3作目の「アルゴ」だった。この作品には、上記の面白さの全ての要素が見事に詰まっていて、その完成度に感心するばかりだった。イーストウッドの後継者と呼ばれるに相応しい活躍で、その技量は前作「ザ・タウン」で認めてはいたものの、その次に更にこんな面白い映画を作るとは思わなかった。そうなると余計に1作目の「ゴーン・ベイビー・ゴーン」の未公開が悔やまれる。

ただ「アルゴ」というタイトルだと、どんな内容の映画だか分からない。そして人に聞かれた時に説明する手間のあるタイトルになっているが、まぁその説明も、これだけ面白ければ楽しいであろう。
1979年にイランで実際に起こったアメリカ大使館占拠事件で、その占拠を免れ、カナダ大使館へ逃げた6人の職員の危機を救うため、CIAが考え出した作戦は、職員6人を「アルゴ」という映画のためのロケハンに来た撮影クルーに仕立て、国外に脱出させるというものだった!

この説明だけで後は作品を見てください、となる。歴史的事実なのだから結末は分かっていること、しかし面白い映画とは、話の終りは分かっていながらも、そのスリリングな展開に観客を引き込むことが出来る。そのためにはリアルな撮影、巧みなカット割りなどが求められるが、そこは申し分ない出来だ。またイラン側の場面、CIAの場面、ハリウッドと、場面ごとに画面の色調を変化させる手法をとり、画面のメリハリが素晴らしい!

監督もこなすが、やはり主演もやらなければないらない(早く監督だけで企画が通るようになって欲しいな)ベン以外は、この映画は全くと言っていいほど一般観客層にはキャストバリューはない。しかし役を演じる上の顔がイイ!大使館員6人の普通に似ている役者で、ここまでキチンと演技されては、文句のつけようがない。そしてハリウッド側の二人アラン・アーキンジョン・グッドマンの上手さ!アランは「リトル・ミス・サンシャイン」でオスカーとっているから、ここはジョンに助演男優賞を挙げようではないか!

そして、この面白い話を彩ってくれるのが1979年〜80年にかけての時代の雰囲気。まず、映画ファンならオープニングのワーナー・ブラザースのロゴにヤラれてしまう。まさに1979年当時のワーナーのロゴだ(正確には1972年から改名した、ワーナー・コミュニケーション時代の)。このロゴの遊びは名作「スティング」でもあった。映画の物語の時代設定に、その時代の映画会社のロゴに合わせるというもの。「スティング」は1936年のユニバーサルのロゴだったですね。

その次に目に付くのが、今やワーナー・ブラザーススタジオのアイコンにもなっている撮影所内の給水塔だ。これには『バーバンクスタジオ』と記されている。そう、この時代はワーナーのみではなく、コロムビアと共同でこのスタジオを使っていた事実に沿っていて完璧。また子供の部屋には1977年公開の「スターウォーズ」のグッズが溢れ、いかに、この映画がマーチャンダイジングで成功したかが、よく現れている。そう、「スターウォーズ」こそ、中東の砂漠でロケした!そこからの発想がちゃんとここにあるではないか!

究極の小ネタは、ベン・アフレックジョン・グッドマンが話しているカフェの壁にかかっている映画のポスター!ロバート・ショウ主演の1976年のユニバーサルの海賊映画「カリブの嵐」(原題THE SCARLET BUCCANEER真紅の海賊)だ!未だDVDにすらなっていない、ブルーレイ化希望のご贔屓映画だ!

「リンカーン/秘密の書」と「ヴァンパイア」の日米の違いに唖然!

リンカーン大統領(ちょっとしたブーム?)はヴァンパイア・ハンターだった!というトンデモない法螺話で楽しませてくれるのがハリウッド映画。一方、自殺願望の若者たちの血を頂き、その行為は殺人ではないとし、最終的には自殺願望の娘と恋愛関係となるヴァンパイアを主人公にしたのが岩井俊二が監督した「ヴァンパイア」だ。同じヴァンパイアを題材にしていながら、こうも捉え方が違うものなのかと驚き、その日米の感性の差を楽しんだのだった。

わかり易いことが大前提なハリウッド映画の基本は、ひとことで言い表すことのできるプロットだ。その点で言えば「リンカーン〜」は最もハリウッド的な作品だろう。前記したプロットのみである。そこから先の、何故ヴァンパイア・ハンターになったか?いつからなのか?そのための武器は?相手は?などを肉付けしていけば良いという作り方。どうして南北戦争以前のアメリカにヴァンパイアが存在するのか等の質問は受け付けない!

ともかく、こうした映画で大切なのは、大真面目に法螺話を語ること。大袈裟に言えばハリウッド映画から法螺話を取ったら、何にも残んないではないか。その点、この映画は法螺話の大家であるティム・バートンが付いているので安心。あとはどれだけの映像を監督のティムール・ベクマンベトフが作れるかだが、幸いにして納得の行く出来になっている。ゲップが出そうなほどのデジタル映像による特撮場面ばかりだけどね。

一方、岩井俊二が描くヴァンパイアは現代にいた。その現代でどうやって生き血を確保するかが大変ユニーク。要するに首筋にかぶりついては殺人になってしまうので、それは出来ないという設定。自殺願望の若者をネットで募集して、自殺のお手伝いとして全身の血を抜いて穏やかに死なせてあげようとする大学教授のヴァンパイアが主人公。

そしてビーカーに取り出した血を後でいただくというのだ。彼が後半『一度、首筋から飲んでみたかった』という場面があったりと、このプロット、ひとつ間違うとトンデモないコメディになってしまうものだ。そこは岩井監督の静かなタッチの映像で押し切り、彼の教え子である留学生の日本人(蒼井優)が自殺を試み、助けるために献血をしてあげ、逆に貧血になってしまうという展開すら笑わずに鑑賞させてしまうのだった。

岩井俊二監督の頭の良いところは、これを全編英語と(蒼井優以外の)外国人俳優に演じさせたところだ。もし、これが日本人俳優が演じていたなら、それこそ大爆笑(&苦笑)になっていただろう。不思議なもので英語で顔を知らない俳優に演られると、“そういう物語なんだ”と納得してしまうのだった。その他の「ヴァンパイア」の見所は出てくる外人女優の質の高さ。さすが岩井俊二のおメガネにかなったレベルで、かなり魅力的!

結論としては、どうやって法螺吹くかの手法が違えども、そもそもヴァイパイア物自体が、法螺話だったということでした。

「闇金ウシジマくん」は萬田銀次郎を目指すのか?

女優では竹内結子柴崎コウ、男優では売れっ子になった岡田将生など、多くの俳優を抱えるプロダクション、スターダスト・プロモーション。今や、この事務所の俳優なくしては映画もTVもキャスティングがままならないとまで言われる。その勢いに乗ってスターダストが映像に特化したレーベル(製作、幹事会社、配給、パッケージ販売)SDP=スターダスト・ピクチャーズを立ち上げ、ソフトビジネスにも参加したのは2009年あたりだったろうか?

「余名」「瞬またたき」「シロメ」「猿ロック」などが、配給及びパッケージ販売まで独占するコンテンツとなっているが、正直言って“当たったねぇ!”と言える感じはなかった。自社所属の俳優を起用して、試行錯誤しながら自社配給出来る(他のビッグ・バジェットは東宝配給になる)作品を生み出そうと頑張っていたのである。そして遂に「闇金ウシジマくん」という金脈を掘り当てたのだった!原作ファンも含め、新宿バルト9はけっこう入っていましたよ!

原作の漫画は知らなかった。深夜に何気に見たTBSで突然映し出された、風俗嬢に返済を迫る場面に目が釘付けになり、その毒っけ満点の映像と展開に魅入られてしまったのだった。もともと山田孝之という俳優に対し「クローズZERO」から“何か変わった!、今まで無理して優等生演じてたの?”と感じていたので、この丑嶋馨というキャラクターが、とても合っていると思ったのだ。後で聞いて知ったが、原作ではかなり過激な描写があるとのことだが、深夜といってもTVであることには変わりないので、その辺はほどよく控えてあり、バランスはちょうど良い。

とは言え、毎週の放送を全部見たわけではなく、TV版がどうのこうのとは言えない。そのキャラクターが気に入っただけと言った方が正解か?よって、今回の映画化が密かな楽しみであった。物語が原作漫画からとられたのか、オリジナルかは知らないが、一言で言えば面白くできている。林建都扮する渋谷に拠点にするイベント仕掛けて成り上がりたいが金はない若者(キャラクターは林君には珍しいチャラ男)対ウシジマ君と、サイドストーリーで大島優子扮する目的を持たない今どき娘の成長という2つの話の面白さ。

ラストに『闇金は犯罪です』とテロップに出るように、犯罪行為ということを知ったチャラ男君が、女の子を使って借りた金を返さず、取り立てに来たところを警察に知らせ、ウシジマ君が逮捕されるという展開が面白い。その取り調べをする刑事を演じているのが古舘完治という絶妙なキャスティングだ。そして、この映画で最も魅力的な登場人物は新井浩文が演じた殺人鬼!最初は新井君だと分からなかったぐらいのキャラとなっていて「アウトレイジ ビヨンド」のチンピラどころの騒ぎじゃないぞ!

他にも大島優子のどうしようもない母親役に黒沢あすか。借金返済のために娘に『あんた3Pしてくんない』と一緒に売春を持ちかける母親役をリアルに演じられるなんて、さすが黒沢さん!ビッグ・バジェットの作品でなくても、ちゃんと目配せ出来ているキャスティングの映画は、それだけでも見応えがあるのだ。

さて、金融漫画からの映画化作品となると、どうしても比較されるのが「難波金融伝・ミナミの帝王」ということになる。大阪ミナミで闇金萬田金融』をやっている萬田銀次郎が主人公で、やはり返済は厳しい。しかし、借した相手が更なる悪に騙され返済不能になったりしたら、そこは大阪人情で銀次郎が返済も含め悪と対決する。要するに「ミナミ〜」の方が浪花節テイストで、ウエットに対して「〜ウシジマくん」の方がクールでハードというところか。

同じ闇金の世界を描き、原作の漫画からの映画化のネタはあるのだとしたら、ウシジマくんは萬田銀次郎になれる可能性があるぞ!丑嶋馨の役は山田孝之以外は考えられないので彼次第だが、SDPとしてもこの映画の成功は放っておいてはならない。すぐに続編を作るべきでしょう。というか1年1作のシリーズ化にチャレンジしてみてくれませんか?

「ハンガー・ゲーム」って何でこんなにアメリカで当たったの?

ハリウッド映画は常に全世界へ向けて作品を提供していると思っているが、それでも自国でのみヒットし、海外では不振な興行成績に終わる作品も多数存在する。特にコメディがその最たるものなのだが、他にも黒人向けに作られたものであったり、ホラー作品だったりする。ほとんどの場合、その作品に出演している俳優の知名度は日本では低い。よって公開されればまだ良しという扱いになってしまうのだ。

「ハンガーゲーム」は残念ながら、見事にその例に当てはまる1本になってしまった。北米での興行成績はなんと4億ドルを超えているのに、日本では大ヒットの声は聞こえてこない。正に出演者の知名度、原作(ヤングアダルト小説とのこと、日本で言うライトノベルか?)の認知度などに日米の格差を感じて、アメリカがヒットしても日本は難しいというパターンだ。配給の角川映画は、この後に作られる続編も公開してくれるのか心配。まぁ、逆にアメリカでのヒットの仕方が異常だと思いますがね。

本国での製作、配給はライオンズゲート。この会社は本当に今年は元気がいい!現在公開中の「エクスペンタブルズ2」もヒットさせ、ついこの間まで「ソウ」を代表作とするホラーの会社だった、そのイメージはすっかり無くなったぞ。サミット共々インディペンデントの製作会社の勢いを感じますな。

この物語の設定は何も新しくない。日本の「バトル・ロワイアル」との類似が取りざたされたが、むしろ有名なところを引き合いに出せば、これはサバイバル・ゲーム版「トゥルーマン・ショー」ではないか。この登場人物たちが知らないところで、その行動がメディアで中継されるというパターンは、他にもジェラルド・バトラーの「GAMERゲーマー」、WWEのレスラーだったスティーブ・オースティンが主演した「監獄島」などがある。

特に「監獄島」は製作はWWEフィルムだが、全米配給は同じライオンズゲート。またスティーブは「エクスペンタブルズ」にも出演とライオンズゲートにはゆかりの俳優。そして物語は選ばれた囚人10人が釈放という報酬のため、ある島で生き残りをかけ殺し合い、それが全世界へ中継されるという、ほとんど一緒のストーリーだ。これをむさ苦しい男連中がやるとB級映画となり、憂いを帯びた少女が妹に変わって戦えば大ヒット娯楽超大作になってしまうのであった!変なの?

憂いを帯びてはいるが、美人度は欠けるジェニファー・ローレンスが主演。「ウィンターズ・ボーン」の演技力を評価されて、インディペンデント映画で活躍をするのかと思いきや、こうした大作で有名になるパターンは「トワイライト」のクリステン・スチュワートと似ているなぁ。こういうところもサミットとライオンズゲートは本当に競い合っているというか、真似ているというかですね。

他の出演者は「ゾンビランド「2012」など、最近のアメリカ映画の変な役だったらこの人、ウディ・ハレルソン。ご贔屓役者のスタンリー・トゥッチ、「崖っぷちの男」でも頑張ってたエリザベス・バンクス、さすがの貫禄のドナルド・サザーランド、変わったところではレニー・クラヴィッツ!一見すると豪華だが、それで劇場へ駆けつける日本人はいませんよね。

2003年に「シービスケット」という競馬映画の傑作をものにした監督のゲイリー・ロスにしてみれば、この作品の出来は及第点であるが、それ以上ではない。撮影を担当しているのがイーストウッド映画でお馴染みのトム・スターンだったので、クレジットを見て驚いてしまった。イーストウッド映画(出演だけの「人生の特等席」もだった)以外で、彼のクレジットを意識して見たのは多分初めてじゃないかしら。でもウィキペディアでの彼のフィルモグラフィーに、この「ハンガーゲーム」ないですよ!