「アルゴ」には、映画の醍醐味がすべて詰まっている!

面白いと感じる映画の、その条件はなんであろう。個人で感じる要素は様々あるだろうが、まずは以下の3点だと言えるのではないだろうか。
①語られるお話が面白い
②映し出されている映像が、見応えがある
③演じている俳優、そしてその顔が映画の中で魅力的である

なぁ〜んだ、それって結局のところ日本映画の父と呼ばれる牧野省三の言った「1.スジ、2.ヌケ、3.動作」じゃないか!そう、映画史に名を残している名作は、ほとんどがこの条件を満たしているだろう。しかし、映画を見終わった瞬間に“全部入っているぞ!面白い!”と言える作品に出会う確率はそうないのも事実だ。特に洋画は最近そうした感覚になる作品が少ないと感じていた。

そんな時に登場したのがベン・アフレック監督第3作目の「アルゴ」だった。この作品には、上記の面白さの全ての要素が見事に詰まっていて、その完成度に感心するばかりだった。イーストウッドの後継者と呼ばれるに相応しい活躍で、その技量は前作「ザ・タウン」で認めてはいたものの、その次に更にこんな面白い映画を作るとは思わなかった。そうなると余計に1作目の「ゴーン・ベイビー・ゴーン」の未公開が悔やまれる。

ただ「アルゴ」というタイトルだと、どんな内容の映画だか分からない。そして人に聞かれた時に説明する手間のあるタイトルになっているが、まぁその説明も、これだけ面白ければ楽しいであろう。
1979年にイランで実際に起こったアメリカ大使館占拠事件で、その占拠を免れ、カナダ大使館へ逃げた6人の職員の危機を救うため、CIAが考え出した作戦は、職員6人を「アルゴ」という映画のためのロケハンに来た撮影クルーに仕立て、国外に脱出させるというものだった!

この説明だけで後は作品を見てください、となる。歴史的事実なのだから結末は分かっていること、しかし面白い映画とは、話の終りは分かっていながらも、そのスリリングな展開に観客を引き込むことが出来る。そのためにはリアルな撮影、巧みなカット割りなどが求められるが、そこは申し分ない出来だ。またイラン側の場面、CIAの場面、ハリウッドと、場面ごとに画面の色調を変化させる手法をとり、画面のメリハリが素晴らしい!

監督もこなすが、やはり主演もやらなければないらない(早く監督だけで企画が通るようになって欲しいな)ベン以外は、この映画は全くと言っていいほど一般観客層にはキャストバリューはない。しかし役を演じる上の顔がイイ!大使館員6人の普通に似ている役者で、ここまでキチンと演技されては、文句のつけようがない。そしてハリウッド側の二人アラン・アーキンジョン・グッドマンの上手さ!アランは「リトル・ミス・サンシャイン」でオスカーとっているから、ここはジョンに助演男優賞を挙げようではないか!

そして、この面白い話を彩ってくれるのが1979年〜80年にかけての時代の雰囲気。まず、映画ファンならオープニングのワーナー・ブラザースのロゴにヤラれてしまう。まさに1979年当時のワーナーのロゴだ(正確には1972年から改名した、ワーナー・コミュニケーション時代の)。このロゴの遊びは名作「スティング」でもあった。映画の物語の時代設定に、その時代の映画会社のロゴに合わせるというもの。「スティング」は1936年のユニバーサルのロゴだったですね。

その次に目に付くのが、今やワーナー・ブラザーススタジオのアイコンにもなっている撮影所内の給水塔だ。これには『バーバンクスタジオ』と記されている。そう、この時代はワーナーのみではなく、コロムビアと共同でこのスタジオを使っていた事実に沿っていて完璧。また子供の部屋には1977年公開の「スターウォーズ」のグッズが溢れ、いかに、この映画がマーチャンダイジングで成功したかが、よく現れている。そう、「スターウォーズ」こそ、中東の砂漠でロケした!そこからの発想がちゃんとここにあるではないか!

究極の小ネタは、ベン・アフレックジョン・グッドマンが話しているカフェの壁にかかっている映画のポスター!ロバート・ショウ主演の1976年のユニバーサルの海賊映画「カリブの嵐」(原題THE SCARLET BUCCANEER真紅の海賊)だ!未だDVDにすらなっていない、ブルーレイ化希望のご贔屓映画だ!