「るろうに剣心」は谷垣健治で見よう!

最初は、またまた日本の漫画の映画化だとしか思わず、キャストは魅力的であれど、それほど食指は動かなかったのは事実。「龍馬伝」で一躍有名になった大友啓史が、フリーの立場で監督した映画と言えども、キャストを見れば佐藤健も、香川照之も、青木崇高も、そして蒼井優も全部「龍馬組」だ。よって鉄板ではあるが『おっ、そう来たか!』の驚きはなかったのだ。

ところが、製作スタッフの一員に谷垣健治の名を見つけてから様相は一変した。日本のチャンバラ映画と香港アクション映画を合体させることの出来るのは、谷垣健治というアクション監督しかいないだろという期待である。彼を日本映画ファンに認知させた作品は釈由美子主演の「修羅雪姫」。その期待と、彼が参加しているのだったら見る、となるのは、どうやら自分だけではないことがすぐに分かった。およそ普通の日本映画には縁遠い位置にいる、某配給会社勤務の奴が“「るろうに〜」見たいっす!”ときたから“谷垣さんだろ”と返すと“何で分かるんスか?”ときた。

また香港映画大好きの映像ソフトメーカーの女子は、最初は「るろうに〜」に谷垣さんが関わっているのを知らず無関心だったのだが、“アクション監督は谷垣さんだよ”と教えた瞬間に“うそ!ホント!見る!”と食いついてきたのだった。このように彼の存在は香港及び、アクション映画ファンの間では認知されており、言わば世界を相手にしている数少ない日本人映画関係者の一人なのである。

原作の中身を知るまでは、幕末の武士の話で、ちょうど「龍馬伝」で佐藤健が演じた『人斬り以蔵』的なものだろうと思っていたが(剣心の存在自体は以蔵的ではある)、時代が明治になっているのには、ちょっと驚かされた。映画のファーストシーンは戊辰戦争で『錦の御旗』の登場であり、明治維新となることが表されている。ここから新撰組の生き残りの一人、斎藤一緋村剣心の『剣を捨てた者と、捨てさせたくない者』の物語となる。また武士の時代が終わりを告げているが、剣に頼って生きてきたものには、明治という時代が苦しいものであることも興味深く描かれる。

大友啓司の画作りは、『信頼する役者』を画面のなかに置き、どういったライティングとアングルが最善かを考え、それをキャメラに収める方法だ。今回の『信頼する役者』のTOPは吉川晃司と蒼井優でしょう。主役の佐藤健を吉川晃司に向かって行かせて、化学反応を起こさそうとしてるようだ。吉川の演技はまるで「柳生一族の陰謀」の時の萬屋錦之介の様に、素晴らしい“見得を切っている”ではないか!また蒼井優は、たった一粒の涙で、それまで一生懸命頑張っていた武井咲ちゃんをぶっ飛ばしてしまった!そりゃ、可哀相だって!まだ無理だってば!

その武井咲の最大の見せ場はラストの“剣心、人殺しはダメ!”って剣をすてた剣心が、再び斬ろうとするのを止めさせる場面であるが、これが恐ろしいほど「愛と誠」の“誠さん、喧嘩はダメ!”と叫ぶ愛の姿とダブったのだった。演技的引き出しの数がそれほど多くないのは、まだ仕方ないだろうが、まったく同じ台詞回しとなっていて、デジャブ以外の何ものでもない。不可抗力なのだろうが、ここは避けられなかったのか?

話を谷垣さんに戻そう。昨今のアクション映画が取り入れるグリーンバックでCG処理するアクション場面(最近の例は「トータル・リコール」)が、この映画にはひとつもない。すべてスタントなしの役者の肉体と、ワイヤーを使ったアクション・シーンで、これらが全て見せ場となる。要するにアクションが、映画そのものの下支えになっているのだ。この感覚は日本映画では「戦国自衛隊」「将軍家光の乱心 激突」(ちょっと古いかなぁ)で感じて以来のものじゃなかろうか?もちろん、この時のアクション監督は千葉真一である。

また、佐藤健をはじめ、役者の身体能力も見事なもので、日本でもこれだけのアクション映画が撮れるのだ!という、嬉しい証明をしてくれた作品になった。エンタテインメントはこれで良いのだ!だから大ヒットになったのだ。お客様は本当に正直だということを(または、決して騙せない!)関係者は思い知ったであろう。そう、本物を作ればお客様は来てくれるのだ!

香川照之(楽しそうに悪役演じてるなァ)の館に侵入して、次々をフロアごとに対決する展開って、まさに「死亡遊戯」!原作にあるのかは知らないが、ここはブルース・リーへのオマージュとも受け取れ、ニヤリとしてしまったのだった。