オールスター共演の「緋牡丹博徒 鉄火場列伝」を楽しむ!

洋、邦問わず、映画は何で見るかと問われれば、やはり迷わず『スターで見る!』と言うだろう。最近は本当の意味でスターがいなくなったので、『俳優で見る』ということになってしまう。どちらにしろ監督で見るという場合は、作家性の強い映画で、なおかつ有名俳優が出ていないというケースだけだろう。特に往年の娯楽作品だったらよけいに、その会社のお抱えスターを見ることが絶対条件だろう。

黒澤明の名作といっても、やはり三船を見ることが先だ!古沢憲吾よりクレイジー・キャッツであり、若大将・加山雄三(同じぐらい星由里子&酒井和歌子だが)が優先するでしょ。今更なんでこんな事を言うかというと、山下耕作監督特集上映で「緋牡丹博徒 鉄火場列伝」を見たからである。シリーズ第5弾の、この映画の楽しみは東映オールスター大共演なのだった。藤純子を取り巻く男優人の豪華なこと、鶴田浩二丹波哲郎待田京介若山富三郎、若き里見浩太朗、という布陣だ。もちろん、それにお馴染みの河津清三郎名和宏、天津敏という面々だ。

こういった映画であれば、心から安心して楽しめるのである。監督はそれぞれのスターの見せ場をキッチリ撮る事を心がければ良いのだ(それが一番難しいことだと知っております)。第5作となっていよいよ看板シリーズとなった「緋牡丹博徒」だからこその豪華なキャスティングと理解したい。

舞台は徳島。その地元のヤクザ徳政一家に苦しめられる小作人たちに助けられたお竜は、流れ者の博徒・仏壇三次(鶴田浩二)と、関西の大物新興ヤクザ(丹波哲郎)と共に、徳政と対立するというスリリングな展開。ストーリーを書いていけば切りがないが、とにかく物語が良く出来ている。基本は弱いものを助けるお竜の仁侠心で、そこに何を(誰を)、どう盛り込むかだけでいいのだ。ちゃんと違和感のないように熊虎の『兄貴さん』(ご存知、若山富三郎の当たり役!)を登場させることにも成功している。

東宝の「社長シリーズ」を多く手がけた松林宗恵監督がそうであったように、ここでの山下耕作監督も、決して役者の芝居を邪魔しない。仏壇三次が死ぬ場面での、鶴田浩二藤純子をフィックス画面にキッチリ捕らえていればOKなのだ。さらにお竜さんのアクションシーン(これがまた色っぽい!)は、サム・ペキンパーばりにスローモーションを使った迫力のあるものにしている。白のスーツ姿の丹波さんはひたすらキザで文句なし。砂丘を一人ゆくお竜さんを、超望遠で追ったラストシーンに拍手であった!

結局、毎度こうした良く出来たプログラムピクチャーを見る度に思うのは、これだけ盛り沢山で(脚本、笠原和夫鈴木則文)上映時間が110分って、なんて手際がいいんだということ。説明不足ではない省略のテクニックなのだ。現在の映画観客が『すべて説明してくれないと解らない』という状態であるため、説明カットを撮りすぎて尺が長くなってしまうと言うのなら、作り手側も観客も、もう一度こうしたプログラム・ピクチャーを浴びるほど見て、勉強するしかないでしょ!

もっと「緋牡丹博徒」を見たい!それも浅草の映画館で!