「おおかみこどもの雨と雪」はアニメじゃなくて映画でした。

スタジオ・ジブリが配給を請け負った「夜のとばりの物語」はフランスの素敵なアニメーションである。「アズールとアスマール」のミッシェル・オスロ監督が作った独特の世界観の影絵アニメだ。6つの短編のコンセプトは『愛は文化や形を越える』というもの。その第1話が奇しくも「狼男」の物語であり、王国の姫と狼男の、愛の成立を描いた一編で、見とれること請け合いの見事なものである。

そもそも、ドラキュラも含め、狼男らのモンスターの話はヨーロッパ的なものであり、ユニバーサル映画が近年復活させたベネシオ・デル・トロ、アンソニー・ホプキンスの「ウルフマン」も、ロンドンが舞台だったと記憶する。「時をかける少女」「サマー・ウォーズ」で一流のアニメ監督として知られるようになった細田守の新作「おおかみこどもの雨と雪」は、狼男伝説はヨーロッパだけでなく、現代の日本の日常にもあることを、普通に描いていることがユニークで好ましい。

大沢たかおが声を当てているにも拘わらず、役名が『狼男』でしかないことが、物語の主役は母の『花』と二人の子供の『雨と雪』であることを表している。そう、スピルバーグが映画の題材にする片親の母子の物語だ。そして異形なるものがいかに隠れ暮らしていかねばならないか、それを人間は受け入れられるのかを描く。おそらく草平(彼は雪に「分かっていた」と言う)だけでなく韮崎老人も最初から分かっていたと思われる。

話が少し逸れるが、菅原文太演じる韮崎老人は、脚本の段階で当て書きしたとしか思えないドンピシャリのキャスティング。文太さん自身、もう表に顔を出す俳優業より、今は農業生産者の方に重きを置いているようだ。その文太さんが農業の拠点としているのが、山梨県韮崎市だということであれば、これはどう考えても(役名も含め)当て書きということになるでしょう。

細田守監督が今まで発表してきた作品群の共通点は、特殊能力も含めた『異形なるものとの、人間の共存』ということになる。一見すると、ジュブナイルな青春もの、バーチャルな世界、そして狼の子供と人間の母と、全く異なる作品と見えがちだが、その根底は一緒なのだ。ここを見ておかないと「サマー・ウォーズ」のバーチャルなゲーム感覚を評価する人には、この「おおかみこども〜」はダメだろう。

野球好きとしては、「時かけ」も「サマー〜」も野球が(嬉しいことに)共通する重要なファクターだっただけに、今回出てこなかったのが惜しい!ここも3作の共通点にして欲しかった!

演出の特徴は、何と言っても引きの画だ。これも好き嫌いはあるだろうが、アニメで引きの画を使うということは、映画的構図を意識しているのではなかろうか?見事だったのが花と狼男が大学で出会い、門の所で立ち話する引きの画だ。お互いのアップを入れたくなるところをグッと我慢の演出だ。さらに感心したのが、雨と雪が産まれるまでの過程を音楽と画だけで、台詞に頼らなかったところ。画で見せるという映画の基本で、時の経過をさり気なく見せた。

アニメ作品でありながら、“映画を見たなぁ”という感覚で、満足したのであるが、一方では『アニメはアニメらしく、映画的技法で、そこまで作らなくてもいいだろう』という評も見受けられ、正に映画の見方は十人十色であるように、アニメの見方も千差万別だと実感した次第。

まぁ、だから映画って止められないなぁと思うのですよ!