「ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館」は素晴らしく怖い!

無事「ハリー・ポッター」シリーズの完走を成し遂げたダニエル・ラドクリフの新作がホラー映画で、全世界で大ヒットしていると聞いたのは、どれぐらい前だったろうか?その時は“ホラーじゃ日本では劇場にかからないで、ダイレクトパッケージかもしれないぞ”とか思ってしまったが、なんと正月映画として公開される事になった!基本的には作品が劇場で公開されてから書き上げようと思っているのだが、あまりの面白さに、例外的に書く事にしました。

プレスには『イギリスの傑作ゴシックホラー小説完全映画化』とある。確かに19世紀末の物語なので、ゴシックというフレーズになるのだろが、カタカナを使うより『正統的恐怖映画』と言ったほうがなんかシックリくる感じがする。そう、近年これほど怖い映画はなかったんじゃないかな、これなら全世界で大ヒットするのも肯けるというもの。最も怖いけど(怖いの大丈夫な人だったら)多くの人に見てもらいたい!日本でも「貞子3D」よりヒットして欲しい!!

最近のホラー映画というと、殺人鬼が暴れたり、ゾンビが走ったりで、大量に血が流れるというイメージが定着して、怖いというより気持ち悪いほうが先に立つ。また西洋では(今回はこの言葉が似合う)吸血鬼や狼男などのモンスターが優先して、なんだかお伽噺的な感覚となってしまうのだ。本当に背筋がゾクっとする怖さは、やはり幽霊であり、悪霊ということになるだろう。日本では「東海道四谷怪談」に代表される怨みを持った幽霊話が昔から落語、歌舞伎の世界であるわけだから、馴染みやすいのは当然である。

この映画が優れているのは、そうした『西洋幽霊怪談恐怖物語』としての雰囲気を見事に作り出している点だ。ファーストシーンは、何かに見入られたように窓から飛び降りる少女たちの画で、ここから観客を引き付け離さない。主人公の弁護士が向かう場所は、周りが沼地で満潮時には、そこへ向かう一本道が水没してしまう霧に包まれた洋館。いかにもおどろおどろしく“オバケが出そうな”見事なまでの古典的な雰囲気のある画面作りではないか。

西洋はどちらかと言えば『お化け』より『悪魔』で、やつらは突然の憑依となり、怨みだとか呪いだとかは関係ない。「エクソシスト」が代表的な例で、初めて見たときに“何も悪いことしてないのに、リーガンという少女は可哀想だなぁ”と思ったものだ。しかし、この映画は霊の呪いを描いていて怖いのだ。ここに日本が世界に誇る「ザ・リング」系のJホラーの影響をみることが出来るのだ。

忘れてはいけない事のひとつは、この映画がイギリスのハマープロ製作だということ。50年代後半「吸血鬼ドラキュラ」をはじめとした多くのホラー作品で有名となった、この老舗の製作会社の復活を遂げた作品が、この魅力的な恐怖映画ということを大いに喜ぶべきだろう。ジェームズ・ワトキンスという監督にも注目である。彼の監督デビュー作「バイオレンス・レイク」(08、未)を、ぜひ見てみたい!

物語は、次々と子供が死んでゆく、この洋館がある町に来た弁護士が、その呪われた幽霊の謎を解くというシンプルなものだ。系統としては「悪魔の棲む家」「ザ・ハウス」系のいわゆる『家もの』だが、ポルターガイスト現象を描かず、洋館の幽霊の恐怖に徹底している。このシンプルさが良い!95分の尺が良いのである。そして最大の魅力は弁護士に扮するラドクリフ君を一介の父親として、まったくヒーローには描いていないところだ。後半の彼の洋館の中の一人芝居は必見である!まぁ、これ以上は、物語の結末に触れるのでやめよう。

この1本の映画で「ハリー・ポッター」のイメージを払拭することに成功したダニエル・ラドクリフは、これからが大いに楽しみになった。彼自身もポッター男優という『呪い』から見事に逃れられたのだ!