まさか「MIB3」が泣かせの映画とは!

インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」は前作「最後の聖戦」から19年、「ゴッドファーザーPART3」は「2」から16年、「ロッキー・ザ・ファイナル」も「5」から16年と、アメリカ映画得意の続編ものには、けっこうシリーズの間が空いたものがある。この3作ほど長くはないが「メン・イン・ブラック3」(以下「MIB3」)も「2」から10年の間が開き、まさか作られるとは思ってもみなかった。

実は、このシリーズに対する思い入れは、ほぼ無いと言ってもいい。ほとんど内容は憶えていない。「1」はウィル・スミスがスカウトされて、正式に黒スーツの男になるまでだったか?あとは「2」も含め気持ち悪いエイリアンが続々登場して、その彼らに対して、派手に特殊な銃をぶっ放す場面を覚えている程度だ。要するに何故こんなに人気があるのかが分らない、不思議なシリーズ映画だと認識している程度。よって3D料金は絶対出したくなく、頑張って2Dで「MIB3」見た。

エージェントKを演じるトミー・リー・ジョーンズが65歳と、もうアクションを演じられる歳じゃないので、話をどうもっていくのかと思ったら、上手い具合にタイムトラベルを使って、若い時代に戻してジョシュ・ブローリンに、トミー・リーに似せてKを演じてもらって成功。余談だが、ジョシュの親父さんはジェームズ・ブローリンという70年代には欠かせない俳優で、代表作は「ウエスト・ワールド」「カプリコン1」「ジャグラー ニューヨーク25時」といった渋いところ。

このところのアメリカ映画「ダーク・シャドウ」は1972年、現在アメリカ公開中の「ロック・オブ・エイジス」は1987年(この映画については後日ゆっくりと)といったように、過去の年代がキーワードという作品が多い。そう、「MIB3」のキーワードも、タイムスリップしていく先の『1969年』なのだ。では、その69年とはどういった年であったのか?その名もズバリ「1969」(1988年度作品。若きロバート・ダウニーJrと、キーファー・サザーランド共演の学園紛争映画)という映画もあったように、アメリア人にとっては、かなり重要な年でありのだ。

「1969」でも描かれた学園紛争、その根源となったヴェトナム戦争が泥沼化した年である一方、アメリア人の希望を乗せたアポロ号11が月面に着陸した記念すべき年でもあった。映画は後半にそのアポロ打ち上げを上手に物語に取り込み、意外な展開を見せ“えっ、コレって本当に「MIB」なの、なんで泣かされるの?”という感動のクライマックスにヤラれてしまったのだ。その感動の要因の一つは『黒人の地位向上』とアメリカ裏面史がある。

1969年は「ウッドストック」開催でも分かるように、ラブ&ピースの時代であり、すでに60年代前半に起こった公民権運動も(真実の姿は違うかもしれないが)一段落し、黒人の地位向上は確約されていた。よってアポロ11号発射直前の場面で登場する黒人将校も不思議ではないが、登場自体はいささか唐突。しかし、この人物こそが泣かせの張本人だった。

このように「MIB3」は極悪エイリアン退治(これをやり遂げないと、歴史が変わってしまう)というアクションがある一方、エージェントKとJの関係と、その絆という意外な所に焦点をあてた脚本で大成功となった。これだったらウィル・スミスもトミー・リーも、もう一回やってもいいかという気になる脚本だな。そして1969年のコネタもちゃんと押さえ、笑いを誘う(若い人には分からんだろうが)。

極悪エイリアン退治の重要な情報源である、良いエイリアンのグリフィンのキャラクターが後半の作品の出来をUPさせた。コーエン兄弟の「シリアスマン」で評価されたマイケル・スタールバーグのユニークな顔立ちを、無垢なるエイリアンとして仕立て、見事!そのグリフィンを見つけるパーティ会場に居るアンディ・ウォーホールまでエージェントだとし、そのアンディに『お〜い、ヨーコが呼んでるぞ!』という声が掛る。そう、ヨーコ・オノ(ソックリさんは出ないが)のことだ。この頃のカルチャーを知ってると笑えるぞ!

最後のコネタは、グリフィンが姿を隠した場所がニューヨーク・メッツの本拠地の球場。そうだった!1969年に起こった事件で、ニューヨークっ子が忘れられないのが“ミラクル・メッツ”と言われるニューヨーク・メッツの大逆転優勝だ。このグリフィンは未来が見ることが出来る能力があり、ワールド・シリーズ前なのに、球場でメッツの優勝を見て楽しんでいたという、MLBファンには堪えられない、素晴らしいコネタに拍手である!