ザッツ・アメリカン・グッド・ムービー!

アメリカ映画を見る楽しみとは何だろうか?メイド・イン・ハリウッドと言うべき派手な映像に彩られたヒーローものだろうか?それも良いだろう。サスペンス溢れるアクション大作や、SFファンタジーも良しとしよう。また、人気コメディアンお笑いに身を委ねるのも悪くはない。そして、クリント・イーストウッドウディ・アレンの監督の技を楽しむのが最大の喜びだったりする。

そして「ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜」のような映画を見ると、本当に“あぁ、やはりアメリカ映画はいいなぁ、見続けて来て良かったなぁ”と感じるのである。この感じは中々言葉では説明出来ないが、ずっとアメリカ映画を見ているファンには分かってくれるんじゃないだろうか。その要因は、良くも悪くも、そこにキッチリとアメリカ人(というか人間の感情が)と、アメリカの時代が描かれれているからだ。まさにザッツ・アメリカン・グッド・ムービーである。

1960年代前半、まだ人種差別が当たり前のアメリカ南部のミシシッピ州。しかし時代は確実に変化しようとしていた。その象徴的存在が主人公(白人側の)のユージニア(愛称スキーター)だ。彼女が大学を卒業してジャーナリストを志し、故郷のミシシッピ州ジャクソンに戻ってくるところから物語は進んでゆく。その故郷の友人たちは皆、結婚、出産をしており、いかに当時の南部の白人女性社会が、世間から隔離されているかが分かる。彼女たちは、家事や育児を黒人メイドたちに任せきった(しかし、そこにあるのは信頼ではなく差別)気楽な生活を送っている。

スキーターと二人の黒人メイドを通じて、当時の南部の姿と差別と人間の尊厳を爽やかに描き出す。当たり前だった人種差別に疑問をもったスキーターは、一人の黒人メイドにインタビューを試みる。しかし、二人までが精々で、真実の姿を出版するには取材対象が少なすぎる。感動的な場面はその後の、扉の向こうにインタビューに答えても良いというメイドが(皆、勇気を振り絞って、怒りを胸に)ずらっと揃っているカットだ。

この映画、原作の成功は白人にしろ、黒人にしろ、女性の視点、観点からの描写に終始したことだろう。そこには怒りや哀しみもあるが、女性の強さに裏打ちされたユーモアもちゃんと描かれていることが、映画を後味の良いものにしている。もしかしたら南部の差別の実態の真実はこんなものではなく、この視点は甘ったるいものなのかもしれない。むしろ1988年のアラン・パーカー監督による力作「ミシシッピー・バーニング」のほうに近いのかもしれないとも思う。

「〜バーニング」のことを少しだけ紹介すると、1964年を舞台にした南部の人種差別を鋭くえぐった作品だ。行方不明の公民権活動家の調査するベテランFBI捜査官2人(ジーン・ハックマンウィレム・デフォー)が田舎町に捜査に行く。その町では人種差別が当たり前の世界で、捜査は街のKKKや警察によって妨害される。失踪事件と同時に、2人の捜査官は、人種差別主義者も追いつめていくというスリリングな物語だった。南部の田舎町の画が凄く、見事アカデミー賞撮影賞に輝く!

こうした迫力ある差別の実態を描いた男目線とは縁遠いけれど、「ヘルプ」の成功は、女性の世界ならではの部分で、差別にスポットを当てたことだ。そこには、新しい時代の到来と肌の色を超えた理解と友情が見事に盛り込まれていたのだ。

アカデミー賞助演女優賞オクタヴィア・スペンサーや、ノミネートされたヴィオラ・デイヴィスが注目されがちだが、この映画はすべてのキャストのアンサンブルが素晴らしい!もちろんスキーター役のエマ・ストーン(あぁ、「アメイジングスパイダーマン」早く見たい!)が一番だが、白人女性間の確執と対比を表現した、ジェシカ・チャスティンとブライス・ダラス・ハワードにも魅了される。もちろん、トメはシシー・スペイセクだが、なんとあのシシリー・タイソンがスキーターの家の老メイド役で出ているではないか!

シシリー・タイソンは、1972年のフォックス作品「サウンダー」の主演女優だ。1930年代の南部の貧しい黒人一家の家族愛を描いた、社会派監督マーティン・リットの作品だ。なんと分かっているキャスティングなんだ!こういった目配せがちゃんと出来ているのもアメリカ映画なんだよなぁ。