1972年のコネタが満載だ!

『1972年』、なんといい響きだろう。自分の映画体験の中で最も重要な年である。

中学三年生であった。もちろん映画には目覚めていたが、まだ邦画(特に東宝!)一辺倒だった。2月に行われた札幌オリンピック(ジャネット・リンをはじめとしたフィギュア・スケートに魅せられた!)に熱狂し、6月に封切られた篠田正浩監督による記録映画「札幌オリンピック」を見に行き、知らないおっさんに痴漢されたりしたことも今や懐かしい思い出だ。

春に修学旅行(お決まりの京都、実は初めて修学旅行に新幹線を使った学校として新聞にも出た)に行った、その小遣いで芳賀書店の『シネアルバム カトリーヌ・ドヌーブ』を買い求めゾッコンになり、5月封切だった彼女の主演作「ひきしお」に駆け付けたり(旧日比谷スカラ座)、名画座で「わらの犬」やら「小さな恋のメロディ」とか見て、徐々に東宝青春映画中心の邦画から洋画にシフトし始め、7月封切りの「ゴッドファーザー」ですっかり洋画(というかアメリカ映画)に魅了されてしまったのだった。

ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演のヴァンパイア・コメディ「ダーク・シャドウ」は、その72年が舞台である。主人公のバーナバス・コリンズは200年前に魔女によって吸血鬼にされ、そのまま棺桶に入れられて地中に埋められていたが、無事72年に甦って、没落してしまった自分の末裔の一家を立て直そうとするというユニークな話で、いかにもティム・バートンらしい題材である。そしてティム・バートンは1958年生まれ、全くの同世代でジュニア・ハイスクール2年で「ゴッドファーザー」を見ているはずだ。そりゃ、その時代を描く感覚がシックリくる訳である。

そもそも、この映画が笑えるのはバーナバス・コリンズが戸惑う、200年という時代格差のカルチャー・ギャップが描かれるから。カレン・カーペンターを映し出すTVは、小人が入っているものと思っていたりする。音楽に詳しい人なら、このカーペンターズ(まるまる1曲「トップ・オブ・ザ・ワールド」使用、まるでPVのようだ)以外にも72年を表す音楽が使われているのだろう。オープニングの歌はいかにもだったなぁ。72年の時点ではちょっと古いエリック・シーガルの「ある愛の詩」(70年の大ヒット映画)が出てきて、有名な一節が使われたり、台詞に『漁師界のゴッドファーザーさ』とか有り、72年のキーワードが次々と登場する。

最も分かりやすく、時代を表す手法として用いられるのが映画館の看板。ここでは、日本での公開は73年だったが、アメリカでは72年の代表作の1本である「スーパーフライ」が街の映画館にかかっていたりと的確に表現。「スーパーフライ」は、前年の71年に(日本の公開は72年)「黒いジャガー」を公開したゴードン・パークス監督の、いわゆるブラックスプロイテーション映画の代表作。67年公開の「夜の大捜査線」がアカデミー賞を獲得して、いよいよ黒人映画まっ盛りになる時代だ。72年公開作だと思うけど、黒人版ドラキュラの「ブラキュラ」っていうのもあったなぁ。

しかし、この「スーパーフライ」は誰でも分かるカット(字幕スーパーで紹介)だが、もっと映画の頭で出てくる映画館の看板は、なんとバート・レイノルズ主演の「脱出」だった!このくすぐり方にはやられましたなぁ。やはりアメリカ人にとっても、このジョン・ブアマン監督の異色作は72年を表す代表的な作品なんだ、と妙に納得してしまった。若い方には、近くブルーレイになるので是非ご覧ください、と言いましょう。凄くびっくりするでしょう。まぁ、「スーパーフライ」も「脱出」の実はワーナーブラザース映画。契約かもしれないが、意外と義理堅いティム・バートンなのでした。

こうした72年ネタで魅せた前半に比べて、後半はあまり毒っ気のないアクション・コメディとなっていて少々物足りないが、そこはティム・バートン監督の見事な女優起用で許してしまう。まだまだイケてるミシェル・ファイファー、72年当時のロック少女を、シラケ顔でクロエ・グレース・モレッツが演じ、エヴァ・グリーンは魔女そのものの魅力(バディも)だし、ベラ・ヒースコートは“よく見つけたなぁ”という清楚な美少女(「シザーハンズ」の時のウィノナ・ライダーを思わす、と言ったら言い過ぎか?)。ホント毎度いい女優魂を見せてくれますね。

そして、最後はいつも監督の期待に(それ以上でしょ!)答えてくれるヘレナ・ボナム・カーターに拍手を贈ろう!なんぼ自分の奥さんだからって、相変わらずご無体な扱いですこと…。