今週の寅さん③ 第3作目「男はつらいよ フーテンの寅」

DVDの特典映像の予告編を見て驚いた!予告編を劇場で流す段階でのタイトルは、公開タイトルとなった「男はつらいよ フーテンの寅」ではなく、「続・続 男はつらいよ フーテンの寅」だった。これで何か納得。そう、なんで4作目のタイトルが「新」なのかなぁ、とずっと不思議だったのです。そうか、本当は3作目は「続・続」だったのだ。それが、なんで何もない「男はつらいよ フーテンの寅」に落ち着いたのかは知らない。今度詳しい人に聞いてみよう。

さて、3作目の監督は森崎東。この時点で監督キャリアは2作目。1969年10月公開の「喜劇 女は度胸」で監督デビューして、70年の1月15日公開の、この「寅さん」を撮るって、なんという過密スケジュールか!この時代のプログラムピクチャーの生産体制がうかがい知れるなぁ。

タイトルが出る時の(主題歌ではなく)寅さんのテーマ曲のサウンドが聞きなれたものとは違う。まだ本当の意味でのシリーズ化が定まっていなかったのだろうか?試行錯誤というやつですかね。そして「続」では2番のみだった主題歌が、なんと1、2番ぶっ通しで流れる。柴又へ帰ってくる前の寅さんの旅の場所は信州。そこの宿屋の女中役に悠木千帆(現・樹木希林)が可愛らしく出てくる。この悠木千帆といい、今回のエピソードのひとつの、寅さん縁談相手になる春川ますみといい、なんか山田洋次監督的なキャスティングではなく、森崎監督的なものを感じる。

タコ社長の紹介で、寅さんにお見合いの話が来ている。そこへ寅さん帰って来てさっそくお見合い。しかし、その相手は以前に旅先で知り合った女(春川)だった。その女が男に逃げられた話を聞かされるウンザリした寅さんを捉えるカットには、なんか監督が違うテイストを感じる。ここから彼女を不憫に思った寅さんが逃げた男を捕まえ、二人を結婚させてしまい『とらや』で披露宴、新婚旅行へ送り出すというドタバタの挙句にお金のことで喧嘩になり、寅さんが旅立つまでは、明らかに森崎監督タッチではなかろうか。

後半のエピソードは山の湯温泉での寅さんの番頭さんぶりと恋物語新珠三千代演じる女将さん、お志津への恋慕と、河原崎健三郎演じる弟の信夫と、芸者・染奴(香山美子)との恋への応援とが並行して描かれる。おいちゃんとおばちゃんがちょうどその旅館へ泊まりに来て、鉢合わせになってしまう場面の森川信の喜劇演技に大いに笑う。女将さんには(再婚相手として)決まった人がいて、それを旅館の面々の誰が寅さんに教えるかの場面での、野村昭子左卜全の二人はさすがに上手い!

1970年の1月公開の正月映画だった。とらやの面々が『行く年来る年』を見ながら、年越しそばを食べている場面。1969年よさようなら、1970年よこんにちは(万博の年である、『世界の国からこんにちは』である」)と言っている白黒のTV画面に寅さんが映り込む。鹿児島の霧島神宮で、TVレポーターの質問の『子供は?奥さんは?』に対し『子供は3人、お志津よ、元気か?』と答えるいささか辛辣な場面。すでにカラーTVのお志津の家は(もう旦那さんと一緒)番組をつけているが見ていないという物悲しさに満ちている。

この寅さんがTV画面の中で、とらやの面々に元気であることが分かるというパターンは、48作「寅次郎紅の花」でも、神戸大震災のボランティアに励む姿が映るTV画面(録画だが)をさくら、おいちゃん、おばちゃんが見て驚くという場面に見事に生かされたのである。この最終作は映画そのものが、神戸を励ますという意味を込めたものでもあったが、とらやのお茶の間のTVが、寅さんの近況報告に役立つという展開の、最初は3作目にあったのだった。

3作目のラストシーンも鹿児島から種子島へ向かう連絡船での叩き売り口上。そう、48作は奄美大島だったが、ここでは種子島。南へ向かう寅さん(飛行機は使わない)の初めも3作目だったのだ!