映画俳優、三浦友和 賛!!

デビュー作から見ている俳優もしくは監督が、今も、しっかり活躍してくれていると、本当に嬉しくこれからも応援していこうと思ってしまう。海外の監督で言えば、スティーブン・スピルバーグ。旧新宿ピカデリーで見た「激突!」(アメリカではTVムービー)の衝撃は忘れられない。40年以上、世界の映画界を牽引し続けているパワーには驚くしかない。

日本の監督で、デビューから見ていると言えば、森田芳光であった。『あった』という過去形で書かねばならないことに心底無念だ。待機している新作は1本あるが、その次はもうない。商業映画デビュー作の「の・ようなもの」は本当に斬新だった。しかし「それから」は本格的だった。「そろばんずく」のような(良く言えば)実験的な作品から、「阿修羅のごとく」のようなオーソドックスな女性映画までと、幅広い作風を誇った監督はもういない。この喪失感は、個人的には相米慎二市川準以上である。

俳優に目を転じれば、それに当てはまるのが三浦友和である。デビュー作はご存知のとおり、実生活では夫人である山口百恵主演の「伊豆の踊子」だ。唯一無二のスーパーアイドルの相手役にはピッタリの端正な二枚目だった。実はこの『百恵・友和』コンビの映画に対しては、当時はそんなに熱心なファンじゃなかった。いわゆるアイドル映画のプログラムピクチャーで、2本立て番組の1本でしかなかった。こちらの意識が変わったのが、大林宣彦監督の「ふりむけば愛」あたりからか?

要するに監督が前に出て来て、二人を物語の中の素材として演出出来るようになってきたのだ。藤田敏八監督の「天使を誘惑」はそうした1本で、藤田監督の描く男女の日常の中にいる登場人物に過ぎなかったのだ。もしかしたら、コンビの映画で一番好きかもしれないな。ただ、圧倒的に友和さんが良かったのが「泥だらけの純情」。純情チンピラやくざが見事に様になっていましたねぇ。作品完成度が高いのが「霧の旗」。まぁ、これは百恵さんの映画ですね。

その頃、友和さんは百恵さんとだけ映画を撮っていたわけではない。石坂洋次郎原作の映画化作「青い山脈」「陽のあたる坂道」「あいつと私」などだ。さらに石原慎太郎原作の「青年の樹」がある。共演は「青い〜」は片平なぎさだが、他は檀ふみが共演で、百恵さん以外ではもっとも共演作が多い。この辺の作品が実は味わい深かったりする。なんと「あいつと私」の同時上映は、百恵さんの「エデンの海」。これは唯一共演作ではなく、新しいコンビを模索して失敗した作品。二本立てでの共演でした。

百恵さんの結婚引退でコンビ映画がなくなった後、友和さんが俳優として一皮剥けたと言われているのが「台風クラブ」。この相米慎二作品自体は好きではないが、その意見に依存はない。もっとも山下敦弘監督の「松ケ根乱射事件」のほうのダメ男ぶりの方が「台風〜」のダメ男よりずっと良いと思ってますが…。

2005年「ALWAYS 三丁目の夕日」の宅間先生役以降の三浦さんの活躍はめざましい!何が凄いかって、その役柄の広さだ。「転々」の胡散臭い借金取り、「陰日向に咲く」のサラリーマン、「ヘブンズ・ドア」のやさぐれ刑事、「沈まぬ太陽」の主人公と対立する上司、そして「アウトレイジ」のやくざ、「死にゆく妻との旅路」では妻を餓死させてしまう究極のダメ男だ。

新作「RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ」は、定年を目前に控えた運転士役で、実年齢に近い役だが、その演技は本当に素晴らしい。余貴美子扮する妻を愛し、感謝しつつもその想いをうまく伝えられない古いタイプの男。夫の定年を機に看護師として働きたい妻との間に溝が生まれて、二人が人生に迷う物語。前作は運転士になる男、今回は運転士をやめなければならない男、その同じスタンスだが設定の変化がうまい。

また、彼に人生と運転を教わる若者役は中野明慶だが、彼の設定も前作とは逆。前作の三浦貴大(なんと前作には息子が出ていた!)は運転士になる気はなかった男。一方、中野は西武線のレッドアローを(払い下げて電鉄富山にある)運転したくて富山に来た若者という設定。そうした様々な登場人物たちに、ぴったりのキャスティングが出来ている、高感度が大きい作品に仕上がっている。前作より好きだな。同僚の岩松了も、良い味出しているが、なんと言っても娘役の小池栄子が魅力的だ!

とは言え、この映画の主役は三浦友和だ。その佇まいに男の年輪がさり気なく表現されている。妻が家を出たあと、それまで愛妻弁当だったのが、コンビニ弁当や出前に変わり、それを食べる姿がイイのだ。脇を固めることも、1本作品を背負うことも、彼には可能だということを証明してみせた映画だ。ここまでの俳優になるとは正直思っていなかったが、還暦前にして『名優』という称号を手にしたと言えるだろう。