「あなたへ」「ツナグ」「人生、いろどり」で感じた『映画は引き継がれていく!』

9月がまったく映画が見られなかった状態にあり、かなりの飢餓感に襲われた。10月に入れば少しは見られることになったので、さっそく日本映画のハシゴをする。「あなたへ」「ツナグ」「人生、いろどり」の3本を1日で見てしまう。この3本の映画は非常に重要な役目を果たしている3本だと、後から考えていささか驚いてしまった。

残念ながら名優・大滝秀治の遺作となってしまった「あなたへ」の最も重要なシーンは、亡き妻の故郷である長崎の海までたどり着いた、高倉健扮する倉島英二が妻の骨を散骨する場面だ。船の上には高倉健大滝秀治、そして三浦貴大(孫役)がいる。この時、大滝さん86歳、健さん80歳、そして貴大は26歳だ。涙が止まらなかった!映画が語っている物語に感動したのではない、こうして老名優から若い才能ある俳優へ『映画は引き継がれていくのだ』という場面に接したことに泣けたのだった!

まるで降旗康男監督が意図したとしか思えない『伝承の場面』だった。男だから特に三浦貴大に対してそう思ってしまうのだろうが、このことは綾瀬はるかにも当てはまることでもある。余貴美子や、佐藤浩市にはすでに引き継がれた感があるが、その下の世代への監督の目配せを感じたのであった。この作品の後も、健さんにはもっと映画に出ていただき、多くの若き俳優と共演していただきたい。そのことがどれだけ若き俳優の糧になるかは、渥美清という名優から教えを受けた吉岡秀隆の成長を見れば明らかであろう。

三浦貴大は多くのものを、すでに父・三浦友和から吸収していると思うが、まだ「わが母の記」を見ても、共演者である宮粼あおいとの差はあると感じてしまったので、「あなたへ」以降の出演作で、どう成長していくかが本当に楽しみになって来た。

そして「ツナグ」では、昨年のキネマ旬報新人男優賞受賞の松坂桃李へ、樹木希林八千草薫仲代達矢が相たいして(場面はそれぞれ別)、自然と引継ぎが行われていると感じたのだった。これで松坂くんが何も感じていないとしたら、今後の活躍は期待出来ませんね。「ツナグ」という映画自体は、そうした名優を配しての人間ドラマ重視の作品となっているので、死者との再会というファンタジーが入り込む余地がなくなり、いささか窮屈になってしまったのが残念。

「人生、いろどり」は徳島県上勝町を舞台にした、料理のツマに使われる葉っぱをビジネスにした実話を映画化。その町は過疎化が進み、多くの住民はすでに老齢。それを映画にするのだから出演する女優たちも(年齢は記さないが)それなりのお歳の方々だ。富司純子吉行和子中尾ミエで設定は幼なじみ。吉行和子の旦那役は藤竜也という『豪華』俳優陣だ。

そこに、平岡祐太村川絵梨という二人の若手をキャスティング。この二人が最後に結婚式を挙げる場面が美しい!「あなたへ」のような男優から男優への引継ぎではないが、この3人の女優を相手にした平岡くんはいい経験をしたと言える。これは「スイング・ガールズ」の共演とは訳が違うぞ!舞台となったこの土地は女性の方が強いのか?村川絵梨の役どころが市場の仲買人で、男勝りで魅力的だ。この女優は以前からご贔屓なもんで、もっと見たいものである。

一時期は、映画はジャニーズを中心にした若手俳優で、若者だけ集客すれば良いという傾向だったが、どうやら変わって来つつあるようだ。この3本は、そのいい例ではないだろうか。きちんとした演技が出来る、年配の俳優に映画の中心にいてもらいながら、共演の若手に伝承してゆく。そうすれば、まだまだ日本映画の質を保っていくことが出来るはずだと信じたいのである。