「ナキ」に泣かされてしまいました!

順調にキャリアを積み重ねている山崎貴監督のデビュー作「ジュブナイル」(2000年)は、その当時、日本映画が一番苦手と言ってもいいジャンルである、SFファンタジーでありながら、違和感のないストーリーと、見事なVFXで新鮮な驚きに満ちた作品だった。「ALWAYS 三丁目の夕日 」シリーズの人情話は例外として、その他の「リターナー」「BALLAD 名もなき恋のうた「SPACEBATTLESHIP ヤマト」はハリウッドが得意とするフィクション(言い方を変えれば荒唐無稽)としての物語が作れる人だ。要するに堂々としたホラ話が出来る監督なのである。

新作「friends もののけ島のナキ」も、彼だったら当然行き着くであろうと予想できた、フルCGアニメというテクノロジー満載の外見でありながら、中身は童話『泣いた赤鬼』をファンタジックに脚色した物語で、見事に泣かせる作りとなっている。最新のVFXを自由自在に使いこなす山崎貴だが、映画の基本は『お話』であることをしっかりと分かっているのである。そして今回はアニメなので、その『お話』の上にどんなキャラクターを載せるかだけなのだ。

もののけ島は美味しいキノコが沢山生えている所と知った少年・武市と赤ん坊の小竹。病気のかあちゃんの薬代を、そのキノコを売って稼ごうと島に上陸した二人だったが、伝説通りもののけ島には鬼がいて、驚いた武市は小竹を島に残したまま逃げ帰ってしまう。その小竹を見つけた赤鬼のナキと青鬼のグンジョー。この二人(というか二匹というか)の鬼と小竹が主要登場人物だ。すなわち鬼と人間の間にフレンドシップは産まれるか?という展開で、“だからタイトルがfriendsね”と思わせる。

それでも充分に心が温まる話なのだが、実は本当の意味のfriendsが、後で用意されていて、ここが分かった瞬間に、さらに泣ける仕掛けとなっているのだ。やられましたね!簡単に言うと、ナキとグンジョーの友情なのだが、その描き方が見事なほどドラマチック、なんか任侠映画の男と男の友情の話を見ているようだった。その二人の鬼を演じるのが(もちろん声だが)香取慎吾山寺宏一だが、このご両人が絶妙であった。

本職の声優で、その実力は折り紙つきの山寺のうまさは当然なのだが、この映画の驚きは香取のほうだった。地声ではなく、少しダミ声にしてナキのキャラクターの外見の印象と、ぴったり合っている。単にSMAP人気を頼りに観客動員を狙っただけの、香取のキャスティングじゃないかと思っていたのが恥ずかしくなった。年間に見るアニメが、鉄板の声優陣出演の「コナン」と「シンちゃん」だけでは、その声の重要性を、どうしても忘れかけてしまうようだ。

考えてみれば、山崎貴の監督デビュー作「ジュブナイル」は香取主演の映画であった。この時点から、もしかしたら香取の声が、アニメに活かせると感じていたのでは?そもそも山崎貴監督は香取慎吾草磲剛木村拓哉SMAPの三人との共作を果たしている。この力量は、実は尋常じゃなく、ハリウッドで言うなら『細かい横槍が入る』スタジオを相手に、注文の多い女優をコントロールしながら、大衆を満足させる作品を作り上げる職人監督といったところだ。日本では職人というと、インディーズの作家性丸出しの監督より下と考えられがちだが、実は全く逆で、職人の方が上なのだ。

という訳で、益々「ALWAYS 三丁目の夕日64」が楽しみである。自分が小学校1年生の時の話を、どう職人山崎貴が見せてくれているのだろうか?