「阪急電車 片道15分の奇跡」は、なぜ面白くないのか?

いかに天下の東宝と言えども、配給する作品がすべてスマッシュヒット以上を記録することは有り得ない。また、なんでこんな企画の配給を引き受けたの?と不思議に思う作品も、たまには登場する。今年もありましたねぇ。「阪急電車 片道15分の奇跡」です。この映画に対して、東宝がどのレベルの興行成績を期待したのかは分らない。しかし興行云々とは別に、映画そのものが『見事なほど』面白くはなかったのです。

ただ単に面白かった、つまんなかったで済ませては映画に対して失礼だ。また面白かった部分を語る事は簡単だ。しかし、その映画がいかに面白くなかったかを、キチンと語ってこその映画分析だと思っているのです。という訳で「阪急電車」のことを書きます。

まず、キャストは豪華メンバーです。中谷美紀戸田恵梨香宮本信子玉山鉄二勝地涼南果歩谷村美月芦田愛菜などなどの出演。では、いったいどういった映画だと一言でいうなら、良く言えば『15分の電車出会う人々の、それぞれ人生の機微を描く』となるが、実際は『電車の中で他人の迷惑を気にしないオバチャン連中に、宮本信子のお婆ちゃんが叱るまで』。なんじゃその映画と思うでしょ、でも本当なんですよ。

その、オバチャン連中に仲間にさせられて振り回される主婦に南、その南を助けるのに戸田、その戸田にDV彼氏と別れなさいと諭す宮本、その孫が芦田と登場人物たちの接点があるが、単なる接点だけで、絡み合って来ることはまったくなく、物語がすこしも広がらないまま、登場人物の交代となるだけだ。

一応、核となる話は、中谷美紀をめぐる話なのだろう。結婚の準備をしている彼に裏切折られ、会社の後輩にその男をとられる女。腹いせの結婚式出席の衣装は、花嫁しか着られない純白のドレス。そのドレスのまま阪急電車に乗って(秋の設定で周りの人は長袖なのに、彼女だけ肩丸出しのドレスで寒そう!)これまた宮本信子さんに“落ち着いたら会社を辞めて生活を変えなさい”と諭される。で、それだけの話。

これほど物語が流れていかない映画も珍しい。画面に登場するそれぞれのキャストは、どんな映画かわからないまま、その場面の登場人物に(一応)なっているだけだ。無理かもしれないが、『片道15分の奇跡』という副題が付けられているならば、オスカーを獲得したポール・ハギスの映画「クラッシュ」のように、バラバラの登場人物たちが、ラストに向かっていくつれ、複雑に絡み合った展開か?と期待するではないか!まったく無理であった。

また、その登場人物たちが見事なほど、活き活きとしていない。全く溌剌感のない戸田恵梨香。DVの彼氏に振り回されているだけ。その彼氏と別れさせる親友を演じる相武紗季が、(友情出演なのに)一番印象に残ってしまうほどだ。主婦役の南も見ていてイライラするだけの役柄。そして、すべての印象を車内で騒ぐオバチャン軍団に持って行かれてしまいました。

という訳で、結局最後に宮本さんに叱られても、一向に気にしないオバチャン軍団で終わる、この映画をどこをどうして見たら面白く感じられるのだろうか?「図書館戦争」「フリーター、家を買う」と映像化されることの多い有川浩の原作だが、活字にしたらもっと登場人物たちの心理が語られていて、面白いのだろうか?もしそうなら脚本の不備だ。監督は関西テレビ三宅喜重という人だ(初監督)。勝地涼谷村美月のラブラブの件の変な演出は深夜TVだったら許されますが…。

しかし、関西地区では結構ヒットしているらしい。ご当地映画の持ち上げも、ほどほどにしたほうがいいですよ。