いつもそこにいる俳優、津田寛治

今の日本映画を見て、また出てるんだぁと思わせるのは(要するに出演作品の多さ)香川照之や大杉連であったり、光石研遠藤憲一だったりだ。しかし意外や目立たないけれど、そこに加わるのが津田寛治なのではないか。他の4人に比べれば、役柄もそれほど大きくないので、印象としては薄いかもしれないが、最近かなり気になって仕方がない男優の一人になってしまった。

そもそも、その存在を知った(と言っても見ただけ)は映画でもTVドラマでもなくCMでだった。そう、名前は知らなくても『誰?』と思わせる缶コーヒーのCM(BOSS)ですな。その時の印象は、また上手い素人見つけてきたCMだなぁ、としか思わなかった。それが2002年の「模倣犯」で“俳優ちゃんとやってる人だったのだぁ!”と一発で覚えさせられた。ブルーリボン賞助演男優賞取ってるのだから、覚えて当然だな。

しかし、けっしてその後も役の規模は大きくなく、助演ではあるが助演賞まではいかない役柄が多く、いつの間にか作品の中にちゃんといる俳優という認識となった。出演作の多さにすべて見ているわけにはいかないが、印象的な映画は「樹の海」「トウキョウソナタ」の2本で共にサラリーマンの役だ。「樹の海」の酒場で塩見三省との会話劇は見事なものだったし、「トウキョウ〜」のリストラされながら家には言えないプライド高いエリートサラリーマンも好演だった。

なぜ、今頃になって津田寛治かというと、ようやく石井隆監督の「人が人を愛することのどうしようもなさ」を見たから。このせつないまでの愛とエロスの物語で、彼が演じるのは女優名美の(ある時は鏡子でもあり、ゆうこでもあるが)のマネージャー岡野役。先頃見た出演作「不倫純愛」では体を張った艶技だったが、この「人が〜」の津田はストイックで報われない無償の愛を表現して対極であるが、対で語られるべき役柄だ。

この役を(映画を見逃していたことに後悔)見ずして津田寛治を語るなかれと、いうべき代表作だったのだ。もちろん、その愛の対象になる喜多嶋舞扮する名美の魅力(大胆な艶技の数々!)が大前提ではあるが、その二人のすれ違いのバランスが、映画の後半を支えているのだった。

「ヌードの夜 愛は〜」も好きな石井作品だが、これはそれ以上だぞ!なぜなら、これは喜多嶋舞という主演女優のための映画だから。「ヌード〜」は紅次郎という男の映画でもあり、また佐藤寛子大竹しのぶ井上晴美という多くの出演者が魅力的な群像劇でもあるのだ。それに対して「人が〜」の監督石井隆は喜多嶋しか見ていない。よって彼女を活かす登場人物のみが必要なのであり、そのことを理解している津田寛治は作品のなかで、決して出しゃばることはしていない、そこが良いのだ。

2010年度のキネ旬ベスト10で好評価だった「ヘブンズストーリー」にも津田は出ているので(4時間38分の映画であるが)追いかけて見なければなるまい!!