映画監督、品川ヒロシ!

「ドロップ」でスマッシュ・ヒットを飛ばした品川ヒロシ(祐とどう使い分けているのか分らない)は、作品の原作者であると共に、映画監督としてもデビューした。自らの体験を元に(そうらしい)不良が喧嘩に明け暮れる日々を描いて、若者に共感を呼んだ。実体験を元にした1作目は勢いで出来上がってしまうので、本当にその監督なり、作家なりの真の実力は見極められないと、よく言われる。

その男、凶暴につき」の北野武、「お葬式」の伊丹十三と言った、いわゆる異業種監督への第1作目の評価のときについて回る、そのフレーズを払拭するのに必要なのが、2作目、3作目以降の成功なのである。北野監督であれば「あの夏、いちばん静かな海」、伊丹監督の場合は「マルサの女」といった具合だ。

当然、品川にもそれは求められた。それだけ「ドロップ」の評価が高かった証拠でもあり、次作への期待でもあった。その2作目が「漫才ギャング」である。今回も、まずは原作者となっている。そして実体験とまでは言わないが(というか知りませんが)、自分の本業であるお笑い芸人の世界といった、身の回りに題材を求めているのは、前作と一緒だ。

ところが、前作以上に、ちゃんと映画の構成になっているではないか!基本は不良の世界と漫才の世界の合体で、奇抜なことを全くしていない。オーソドックスに主人公に相手がいて(恋人も含む)、様々な事件があり、主人公が悩んで成長をしていくという展開だ。しかし、これでいいのだ。こうしたキチンとした映画すら撮れない監督が多い中、品川ヒロシは立派な映画監督じゃないか!

堅物漫才師の佐藤隆太がドレッド頭のギャング上地雄輔と、留置所で会ったあたりから、うまいこと伏線が張られているし、いささかクドくて嫌だったロバート秋山扮するオタク青年すら、後半ちゃんと活かしてくるなど、感心させられたのだ。また恋人の石原さとみと“結婚しよう!”と隆太が言うくだりの、四畳半同棲青春映画丸出しのベタベタも好感が持て、『品川監督、そこが好きなのぉ〜』とニヤついてしまった次第である。

ただ、不思議なことに(それでいいのでしょうか?と思ってしまったから)隆太が頑張る漫才がらみの場面がそれほど面白くなく、それ以外の隆太の借金をめぐる宮川大輔(うまいなぁ!)登場のパートと上地と新井浩文の対決と、それを傍観しながらも上地を認めるもう一人のギャング(この丸顔、五分刈りの役者は誰?いい味!!)の描写が圧倒的に面白い。本業が芸人だったら、本来は漫才の描写の部分が一番面白くなきゃいかんのじゃないか、これじゃ所属事務所に怒られんじゃないのと、老婆心ながら思ってしまった。

その所属事務所の芸人さんにも、映画を撮っている人が何人かいるようだ。板尾創路さんのは見逃したので、なんとも言えないが、少なくとも品川監督の力量は、他の異業種監督とは一線を画し、さらなる期待をかけて次回作を待ちたくなった。要するに、映画が勘違いしていないのだ。そこがイイ!

ただひとつだけ要望するなら、次回は他人の原作なり、脚本で、まったくジャンルの異なる(例えばミステリーとか、ラブストーリーとか)映画を見てみたいのだ!