絶世の美女、エリザベス・テイラー

エリザベス・テイラー(以下、長いのでリズと書かせてください)の死に対しての報道を詳しくチェックした訳ではないが、どうも映画女優としての認識がちゃんとされてるのかなぁ、と思われるものが少なくなかったように思う。すなわちマイケル・ジャクソンのいいお友達だったとか(エセ音楽関係者あたりのコメントか)、結婚、離婚を繰り返したとかが多く、晩年の太った写真ばかりを使っているのが多かったようだ。

若者でもないだろうに、ツイッターあたりで、“美しかったですねぇ、映画は見たことないですが”とかあったのには唖然としてしまった。リズの映画を見ずして、なんで美しかったって言えるの?それって単に写真を見ただけで、映画女優に対してのコメントでも何でもないでしょ。『美女』の代名詞になっているクレオパトラを演じてことがある、という情報だけで美しかったと言っているとしか思えない。

俗に言う『絶世の美女』というフレーズが本当に当てはまる女優、それがリズだった。個人的な意見もあるだろうが、最も美しい時に撮られた傑作は「陽のあたる場所」だと思っている。当時、彼女はなんと19歳である。外人さんは老けて見えると言うが、19歳でこの美しさは有り得ないでしょ!と見蕩れてしまったものだ。カトリーヌ・ドヌーブ命のため、金髪一直線ではあるものの、黒髪でもOKはリズと「ピカソ・トリガー」シリーズの常連であるジュリー・ストレイン(誰も知らないか)ぐらいだ。

今の金額に換算して150億近い製作費を投入し、20世紀フォックスの経営をピンチに陥れた「クレオパトラ」に出たときは32歳だった。5〜6年遅かったんじゃないかな。さらにこの映画が失敗したことによってのイメージダウンも痛かった。よって普通に彼女の代表作は?と聞かれたときに「クレオパトラ」とは出てこないのである。

では、その代表作を出演順に挙げてみると、

①「花嫁の父」
②「陽のあたる場所」
③「ジャイアンツ」
④「熱いトタン屋根の猫」
⑤「去年の夏、突然に」

の5本に落ち着く。①と②は十代の時の映画で、幼さを残しつつ本当に美しい。もっと若い、少女時代の代表作は「緑園の天使」ですね。しかし、この2本は本当の意味では、出演作であるが主演クラスではない。①はスペンサー・トレイシーのタイトルロールそのままのお父さんが主役(S・マーチンがリメイクしましたね)で、②も主人公はモンゴメリー・クリフトだ。富豪の娘のリズと結婚し、成り上がっていこうとする青年役をモンティが演じているのだ。③も実はロック・ハドソンジェームズ・ディーンに挟まれて分が悪いのだ。

しかし「ジャイアンツ」の名場面、ジミー扮するジェット・リンクとテキサスの大牧場に嫁に来たリズとの会話『お金がすべてではないわ、ジェット』『金持ちは皆、そう言うのさ』の台詞のやり取りで強烈な印象を残しているので、代表作となった。また、ここで老け役に挑戦したのだった。晩年リズがエイズ撲滅に熱心になるのは、この時共演したロック・ハドソンエイズで亡くなったから。当時のハリウッドでゲイを公表できるはずもなく「陽の〜」のモンティとも、ロック・ハドソンとも噂にならなかったのは二人とのゲイだったからと言われている。

④では、役の中でポール・ニューマン不能の夫として描かれるが、実はゲイであり、それを直接的な表現が出来なかった時代だったので、なんで美しい妻がスリップ一枚で誘惑しても、彼は抱くことをしないかが、不思議でならなかった。そう、実はリズは巨乳のグラマラスなボディの持ち主で、この人妻役以降、かなり肌を露出するようになる。決定打は⑤の白い水着姿だ。大変にソソりまっせ!

上記の代表作にオスカー獲得作品が入っていないことにお気付きだろう。最初のオスカーの「バタフィールド8」では娼婦の役で、これまた魅力的なスリップ姿を見せるが、作品は好きではない。実は演技面で評価され始めると同時に、出演作品の内容は暗く、重たいドラマばかりになってくるのだった。いかにリズに明るいラブストーリーや、コメディが似合わないかが、この作品傾向から読み取れるのだ。

2度目のオスカー獲得作「バージニア・ウルフなんてこわくない」が、その重いドラマの典型で、リチャード・バートン扮する夫と夫婦喧嘩しているだけの映画でちっとも面白くない。その後に出演した映画で魅力的なのは「ザッツ・エンタテインメント」だけかな。でも演技ではなく作品紹介者のひとりという役回り。それは彼女もMGM出身者だからだった。

子役出身者にとっては、撮影所が学校だったとよく言うが、その意味で言えば、リズこそが撮影所が育てた最後のスターだったのではないだろうか。今頃、同じMGMの子役出身者であるジュディ・ガーランドと天国で逢っているのだろうか。それとも3人目の夫で、唯一離婚で別れたのではない(事故で死別)マイケル・トッドと結ばれているかもしれない。

とにもかくにも、エリザベス・テイラーこそが絶世の美女の代表であり、才能ある美人女優として、ハリウッド映画史に名を残したのである。