やはりボカシのない画面はよろしいですなぁ

ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える」は2回見ることとなった。一度目は修正版、2回目は限定公開された無修正版。その違いはと言えば、またしても悪友アランに一服盛られ、記憶を失った歯医者のスチュがバンコクの街で、前回のベガス同様に娼婦に手を出していたことが分かり、その娼婦の正体が判明する場面。要するに世界有数の男娼の国タイ、当然その娼婦の正体はシーメールで、下半身の男のモノが見えるか、見えないかの違いというわけ。

最初の修正版を見たときは『なんだよ!ここボカシたら笑い半減だよ!』と失望したので、無修正版には大満足なのであるが、見てしまえば大したことはなく、むしろボカシ汚されていない画面は綺麗でよろしい、という意識のほうが強くなってしまう。この感覚は説明しても理解されにくいかもしれないが、散々ボカシ入の画面を見させられた世代のトラウマのようなものだ。

性描写に厳しい日本では、陰毛を映し出した外国映画は、必ず修正され公開されたのである。今でこそ、この規制は大幅に緩和され、よほどのことがない限り女性の陰毛までは大丈夫になってきた。しかし男性の場合はそうはいかず、現在のボカシの対象は、ほとんどが男性性器という状態。ベルナルド・ベルトルッチ監督「シェルタリング・スカイ」でピントのあっていないジョン・マルコビッチのモノが、画面を横切っただけでボカシを入れた日本という国に、監督はなんかのインタビューで苦笑していた記事があったなぁ。

日本の公開版にボカシを入れる方法は、画面から推測する限り、3パターンありましたね(最近のデジタル処理のものは知らない)。ひとつは該当箇所の画面を拡大して、フレームの外に持っていってしまう方法(ボカシというよりトリミングか?)。もうひとつは該当箇所に光を当てて、本来は影である映像を見えなくしてしまう方法。あとは上映プリントの該当箇所に傷を付け、ギザギザ画面でその部分を隠す方法だ。この最後の処理方法で見たのが「時計じかけのオレンジ」。女性の陰毛を追って、画面の中をギザギザがあっち行ったりこっち行ったりだった。

その「時計じかけ〜」ほど、無修正版が求められた作品はないんじゃなかろうか。

昔話をひとつ。今から25年程前、初めてアメリカはハリウッドに行った。目的は日本では買えないアメリカの古いミュージカル映画をしこたま仕入れることだった(ビデオかLDですよ)。友人に教えてもらった在庫豊富なビデオショップに腰を据え、フレッド・アステアジュディ・ガーランドのビデオを山積みにして確保していたら、二人の日本人が店に入って来た。

彼らは流暢な英語で『「時計じかけ〜」のLD置いてないですか?』と言った途端に、店のオヤジは不機嫌になり『うちにはねぇよ、帰んな!』と追い返してしまった。よく聞き耳を立てていると『また日本人が「時計じかけ〜」を探しに来たよ、彼らの欲しい映画はそれしかないのか!』といった様なことを言っている。よほど次々に来るのでしょう。『俺も日本人だけど…』と言ってみると『あんたはグッドチョイスしているからゆっくり買い物してくれ』と言われた。なんだか嬉しいやら、恥ずかしいやらだった。

こうした該当箇所のある映画の、当時の最高画質であったLDを日本には輸入できないので、本国に行って買わなければならなかったという訳だ。関税法第21条(だったかな?)に引っかかるのだ。本とかは該当箇所にスミを入れれば、ビデオはその部分を消せば共に輸入できたが、銀盤そのものに映像が記録されているLDは修正不可能、よって輸入出来ずだ。引っかかったタイトルは「ディア・ハンター」「地獄の黙示録」「アメリカン・ジゴロ」「愛と青春の旅立ち」などなど。「地獄〜」なんてどこが該当と思うでしょ、カーツの帝国にぶら下がっている全裸の死体が該当箇所ですよ。今は笑い話でしかないですね。

現在の規制緩和の方向に一役買った映画が2本ある。ジャック・リベットの「美しき諍い女」とオリバー・ストーンの「エニイ・ギブン・サンデー」。前者は記憶を辿れば(おそらく)1991年の東京国際映画祭で特別上映されたが、国際映画祭規則によって無修正上映となった。その日の渋谷オーチャード・ホールは異様な熱気に包まれていた。方々で『あれ、あんたも来ていたの?やっぱりねぇ』という映画ファンの会話が飛び交っていた。

当時の規制基準では絶対ボカシ連発の該当箇所のある作品が一般に上映されたのである。ちょっとした事件だった。作品も素晴らしかったが、何が素晴らしいかといえば、フランスの名門現像所エクレール(日本でいうイマジカか?)の艶のあるプリントが、汚されずに見られたことだった。

この芸術性の高いフランス映画なら、無修正で見せるべきだ!という映画ファンの熱意がきっかけになって、規制緩和の出発点になったと認識している。もうひとつの1999年の「エニイ〜」は初めで堂々と男のモノが画面に登場した作品。プロフットボールを題材にしているこの映画、当然のごとく選手たちのシャワー・シーンが出てくる。風呂に入る時はみんな裸でしょ、なんで隠すの?といった意識が優先して画面に登場したわけ。ここから風呂的な場面は徐々に開放に向かったと思っているのだ。

今ではなかなか説明しにくい映像規制のお話でした。いやぁ〜やっぱりボカシなしの画面はイイ!