『午前十時の映画祭』の上映に、いささかの失望をおぼえる

昨年の第1回分のラインナップにあったのだが、見事に寝過ごしてしまい、午前10時に六本木に到着できないと分かり諦めた、20世紀フォックスのミュージカル「ショウほど素敵な商売はない」を、ようやく日比谷みゆき座で見ることが出来た。昨年分の50作品を全日上映という形で興行しているみゆき座の、大英断に拍手を贈ることにしよう。

「ショウほど〜」は未だ見ていない数多くのミュージカル映画の1本で、最初に“映画館で見たいなぁ”と思ったのは(日本封切りの1955年には産まれていませんので)、25年以上前に輸入盤のレーザーディスクを手にした時。登場人物6人の横並び場面のジャケットに魅了されたのだった。もちろん現在発売中のDVDも保有しているものの、まずは劇場での思いから封を切らずにいたのだ。

全編アーヴィング・バーリンの名曲に彩られた、ショウビジネスの世界に生きるドナヒュー一家5人の、愛と成長と葛藤の素敵なミュージカルだ。118分で、ちゃんとした物語がありながら、盛り沢山のレビュー場面もあり、ハリウッド映画の構成力が健在だった時代の技を感じさせてくれる一編だ。自分の世代でちゃんとエセル・マーマンというミュージカル女優を見ることが出来るのは、この作品だけだろう。御贔屓のドナルド・オコナーに、若々しいミッチー・ゲイナーとマリリン・モンローという魅力的なキャストだ。

前半の一家全員しての『アレクザンダー・ラグタイム・バンド』がお気に入りのナンバーだ。モンローのミュージカルシーンも悪くないが、一家の次男のティムに扮するオコナーが、好きになった駆け出しのミュージカル女優のベッキー(モンロー)に、おやすみのキスの後ひとりで踊る場面は、やはり彼の芸の魅力満載のシーンだ。描かれる時代は1920年代前半から世界大恐慌の30年代、そして第二次世界大戦直前までというアメリカの激動の成長期だ。

20世紀フォックスのミュージカルと言えば、「サウンド・オブ・ミュージック」に代表される、ロジャーズ&ハマースタインのブロードウェイからの映画化作品というイメージになってしまうが、この「ショウほど〜」の同時期にはフレッド・アステアの「足ながおじさん」があり、それ以前にもシャーリー・テンプルや、スケート選手からFOXの専属スターとなったソニア・ヘニーの作品があったりと、MGMほどではないが、しっかりミュージカルを作ってくれていたのを忘れてはならないぞ。

ところが、映画には大満足、しかし上映には不満足が今回の『午前十時〜』だった。何故か?それは上映画面の不完全なフレームにあった。オープニングのFOXのファンファーレに続く画面のクレジットでも分かるように、この映画はシネマスコーププロダクションの作品。この純正シネマスコープ画面の縦横比率は現在の1:2・35ではなく、1:2・55である。しかし今回の日比谷みゆき座のサイズは2:35でしかなかった。

悪い予感は上映前からあった。まだ何も映っていない画面が2:35比なのだ。最近の映画館は緞帳がなく、貼ったスクリーンがそのままの状態なので、すでに上映前から比率が分かる。それがシネスコ画面なら、「ショウほど〜」は納まらないサイズではないか!案の定、タイトルの「There's No Business Like Show Business」の文字が画面左に寄っているではないか!ドナヒュー一家5人が横に並ぶ場面は、一番左に位置するドナルド・オコナーの右腕が画面から切れ、右端の長男役のジョニー・レイと画面の端に隙間があり過ぎなのであった。

オリジナル・ニュープリントのフィルム上映を売りにしている『午前十時〜』なら、そのオリジナルをちゃんと映し出す上映もされなければならない筈だ。個人的には過去の名作を見る場合(名画座育ちなもんで)、画質にはほとんどこだわらない。さすがにコマ飛びが頻繁にある画面は困るが、ある程度の褪色があっても、画面に雨が降っていても(こういう画面って若い人見たことないでしょ)構わない方なのだ。しかし本来のキャメラに収められた画像は、ちゃんと映し出して貰わないとねぇ。

もし、『午前十時〜』がちゃんとしたシネマスコープを上映できていないとしたら、もっと横長画面のMGMキャメラ65(1:2・75だっけ?)で撮られている「ベン・ハー」はどういった画面で上映されたのだろう?その他の大型画面映画の上映は大丈夫なのか?さらに昨年の六本木は大丈夫で、今回のみゆき座だけの問題なのか?過去にディズニーの「白雪姫」がテアトル新宿でビスタフレームで上映され、7人の小人と踊る白雪姫の足がまったく映っていない衝撃的な上映もあったが、こうした不可思議な上映に文句を言ってくれるのは評論家の森卓也氏しかいない。森氏に『午前十時〜』の全上映作品チェックを頼むべきなのでは?

『オリジナル・ニュープリントのフィルム上映』の宣伝文句が泣きまっせ!!