意外と面白かった!の感想はいけないのだろうか?

テレビドラマとしての放送時は、1回見て『こりゃ、あかん、もう見ないでいいや』となってしまったTBSの「こちら亀有公園前派出所」(通称「こち亀」)だが、映画化され松竹系で公開となった。視聴率、及びその人気度合いから、とても映画化になる作品とは思えなかったが、関係者に聞くとやはり「釣りバカ」なき後、松竹得意のシリーズになるような人情喜劇が欲しくて(「築地魚河岸〜」はどこ行った?)映画化に至ったということらしい。

まず、この「こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE 〜勝どき橋を封鎖せよ!」を見に来る観客層は、どういった人たちなのだろう。ドラマからのファンなのか?、今回の原作の物語が好きなのか?それともSMAP香取慎吾が好きなのか?ターゲットがはっきりしない。要するに香取ファンだとしても彼が演じる両津勘吉には興味がない女性陣は結局見には来ないだろう、ということ。逆に原作ファンは、この世代的に合わない(両さんは明らかに40代後半でしょ)キャスティングに不満なゆえ、最初から無視。

最終的に残ったのは、『何か面白そうな匂いのする日本映画は?』と探し求めている娯楽映画ファンしかいないのだ。この映画を受け入れることが出来るのは、ある程度の「こち亀」に対する知識はあるが、思い入れはなく、香取版の両さんをキャラクターとして、一旦受け止めてくれる人だろう。よって、そうした人たちは映画の出来に対して、それほど大きな期待はしていないのだ。

そして、そうした人たちの感想は『意外に良かったよ、ホロッと来たねぇ』が多かったようだ。

最初からの負け戦というイメージが強く、先入観の塊で『ダメな映画』と勝手に判断しがちだが、そこは見てみなきゃ分からんもので、下町人情と正義感と、ほのかな恋愛感情まで盛り込まれて楽しませてくれるではないか。確かにキネマ旬報誌で立川志らく氏が指摘しているとおり、喜劇の基本としての三枚目が二枚目気取りで『笑い』を誘うという部分は無理があるし、勝どき橋が開くという時代は、どう考えても香取の年齢では違和感があり、不自然な部分を感じる。

そうした違和感は、物語の中核である小学校の同級生で、旅芸人の女座長になった桃子(深田恭子)との絡みで、うまいこと中和されている。その桃子がシングルマザーで、両さんが自分の親父に向かって(ラサールさんですね)『結婚してすぐに父になる』と言うあたりは、誰が見ても松竹伝統の「男はつらいよ」の恋愛パターンだ。その上、親父には『オメェの血が入っていない孫ができる、良かった!!』などというオチで笑わせる(擬似家族もののアメリカ映画をたくさん見ていれば、この台詞が結構コメディとしてイイことが分かる)。

そして後半の、警察庁長官の孫娘誘拐事件と、桃子の別れた旦那との関連と誘拐事件の真相が「踊る大捜査線」のような展開を見せる。捜査を指揮する管理官とか、かちどき橋封鎖されてねぇとか満載ですね。そう、この映画はTBS製作なのに『あれっ、フジじゃなかったっけ?』と勘違いされがちなのは、そのテイストのためだ。それを見て『これ「踊る」じゃん、ダメだよ。こんなことしちゃ!』の人は映画そのものがダメでしょう。

この映画にまつわる問題点は、普通に作品を見て『意外と面白かったじゃん』という一般観客の素直な感想を許そうとしない映画ジャーナリズムの姿勢である。企画がどうとか、役者がどうとかと言って作品そのものを完全否定しようとしているようだ。どうも偏見が優先しているとしか思えない。

普通に見て『意外と面白かった』って思った、その感想を評価しませんか?