池波正太郎文学にぞっこん!

小説家池波正太郎氏は若い頃の自分にとっては、映画エッセイで触れる『作家』で、氏が描く文学そのものには興味が沸くことはなく、ひたすた映画評論家として捕らえるばかりだった(もちろん鬼平他、時代小説の大家とは知っていたが)。

あれは、ヤマハホールの2階のソファだったか、試写に行けるようになった自分の目の前に、淀川長治双葉十三郎田中小実昌の3氏が談笑していた(皆、近づけません!)が、ああ、ここに池波さんがいたら完璧なのに、と思ったことがあった。

それだけ自分にとっては池波さんは映画を語る人であって、こんなに面白い小説を書く人だとは思いもしなかった、なんと無知な自分であろう。

しかし、鬼平から入ったわけではなく、図書館でたまたま手にとった「忍びの女」2巻で、実はもっと固い文学としての時代物だと思っていたところ、いやぁ〜艶っぽいたらありゃしない。まあ映画化になった「雲霧仁左衛門」のエッチだったなぁと納得もしたのだが・・・。

まだ、鬼平には行かず、次は「その男」だ。なんと先日池袋新文芸座で上映された「狼よ落日を斬れ」の原作だったと後で知る。映画を見逃してこんなに後悔を久しぶりだ。実はこの上映は『池波正太郎没後二十年』と称した特集上映だった。通えばよかった残念!

そして「鬼平」だ。文庫の1巻目の巻末の解説はなんと植草甚一氏が書いている(新装版にもあるかは分からないが)。かつて植草さんのエッセイで、ちょいと出かける時に池波さんの中間小説を持って出るというくだりがあったが、その気持ちが今ようやくに分かるのである。

この「鬼平」でようやく池波さんのエッセイの中の『食』のことと、鬼平のなかの食べ物の描写がつながったのだ。またTVドラマのほうでたまに見かける、鬼平の活躍ではなく盗賊たちの描写も、小説ではさらに色濃く、その部分こそが本当の面白さと知る。

そして基本はチャンバラであるということがよく分かるアクションシーンとしての殺陣の描写も映画的であり、読み手によく伝わってくる。あとは江戸の町の描写ですね。これじゃ、みんな昔の地図をたよりに鬼平の足跡を辿りたくなるのもよく分かる。すべてが50を過ぎて、今更ながらであるが、その魅力を確認出来て本当に幸せである。