インディペンデント・スタジオの2つの優れた脚本作品

確かに力の入ったメジャー・スタジオの作品にも、さすがだと思わせるものがあるが、ここ最近のアメリカ映画で本当に『面白かったァ』と言える作品の多くは(配給はメジャーでも)製作母体がインディペンデント・スタジオのものが多い。その代表的な例が、ディズニー配給ではあるが、製作はサミットの「崖っぷちの男」とレイクショア&ライオンズ・ゲート(配給は日活)の「リンカーン弁護士」の2作品だ。

この2本の面白さの要因は、優れた脚本にある。やはり映画は、まずは『お話』が面白くあることでしょ。どんなに凝った映像美を魅せられても、どんな魅力的な金髪女優が出演していても、物語がそこになけりゃ、その映画は面白くないのだ。「崖っぷち」は先の読めない脚本の面白さ、「リンカーン」はどんどん引張ていく手法と、共通するのは明確な語り口であることだ。ややもすると90年代のインディーズ映画の悪い影響のある作品が陥りやすいのが、余計な語り口を加えてしまい話を混乱させること。そうした傾向は、この製作会社規模の作品になると、もう求められていないということだ。

さらに、この2本の映画は的確な配役でも成功というところも共通する。「崖っぷち」はサム・ワーシントンエリザベス・バンクスジェイミー・ベルエドワード(クレジットではエドだった)・バーンズ、エド・ハリス。「リンカーン」はもっと豪華で、マシュー・マコノヒー(マコナヘイが正解のようだが)、マリサ・トメイウィリアム・H・メイシーライアン・フィリップジョン・レグイザモフランセス・フィッシャー、そしてマイケル(トム・コーディ!)・パレまで出ている。これで飛びつかない映画ファンはいないだろう。

もうひとつの共通した魅力はロケーションだ。「リンカーン」はL.A、「崖っぷち」はニューヨークがそれぞれ舞台で、その都市の魅力も見せてくれる。特に「崖っぷち」はNYにある高級ホテルのルーズベルトホテルを効果的に使い、作品に重要な役割を持たせている。すなわち崖っぷちとは、自然の断崖絶壁ではなく、ホテルの窓の外の縁のことだからだ。主人公ニック・キャシディは何故、そこに突っ立っているのか?本当に自殺するのか?という、この男が何を企んでいるのかが徐々に分かって来るという仕掛けになっている。

一方、「リンカーン」は、弁護士が殺人犯にハメられた事が分かってから、話が俄然転がっていき、ぐんぐん引き込まれる。暴行事件の弁護の依頼人が殺人犯であり、その罪を弁護側にいながら、どう立証しようとするのか、という法廷劇としても楽しめる。一番良いのは話をややこしくしないで、シンプルに『こっちが悪い奴で、こっちがいい奴ら』という分かりやすい設定にしているところ。ジョン・レグイザモあたりのサブキャラが効いていて、クレジット下位の役者連中の『顔』がイイのだ!

でも、よく考えればこのレベルの作品はちょっと前までだったら、メジャー・スタジオが普通に作っていたもの。例えば「白と黒のナイフ」例えば「スニーカーズ」と言えば分かってくれるだろうか?そう、こうしたインディペンデントが面白いということは、それだけメジャー・スタジオの水準が落ちているという証拠になってしまうのだ。こんな皮肉なことがあっていいのか?

特撮の派手な映像の映画ばっかり作っていたから、いつの間にかこんなになっちまったんだ!技術の進歩が製作側のおツムを退化させてしまったとしか思えん!かなり嘆かわしいことだ。