「LOVE まさお君が行く!」の意外な見どころ。

テレビ東京の「ペット大集合!ポチたま」という番組は、知人が見ていて『楽しいよ』と教えてもらってはいた。その番組内の人気コーナー『ポチたまペットの旅』というのも犬好きには答えられないとのことだったが、時間が合わないので、未だかつて一度も見たことはない。しかし、そのコーナーの初代(っていう言い方でいいんですよね)のまさお君が、すでにこの世にいないことは知っていたので、映画化になると聞いたときには“やっぱりねぇ”という感想だった。

売れない芸人(と言うか、前半の展開では甘ったれた芸人としか思えん!)と、ラブラドール・レトリバーのまさおが全国の可愛いワンコを訪ねて旅をする番組を、何とか製作していく過程が描かれるのが前半部分。そして驚くなかれ、その前半部分の主役は、製作に悪戦苦闘する番組AD役の成海璃子だった!実はこの映画は、ジャニーズの大物タレントを使っていながら、主役不在で(もちろん、映ってはいるが、いなくても大丈夫、それで成立してしまったのだ!)前半が語られる、驚くべき作品になっていたのだった。

番組が人気を獲得するまでの前半は、成海ADの『女子が頑張るお仕事ムービー』として見ることが出来る。タレント犬のギャラが自分の給料より高いのを嘆きつつも、まさお君が全然言うことを聞かず、良い場面が作れなくっても、FAXで続々と番組批判されても、彼女は奮闘するのだ。それが成海の女優としてのキャラとマッチしていて、まったく意外な見どころを発見することになった。

成海以外の配役は、まさををTV局に貸し出す(一番安いギャラだったから)動物プロダクション社長に寺嶋進、番組プロデューサーで光石研、人気ものになったまさお君が慰問しに行く孤児院の院長に小野武彦、売れない芸人の父親役に浅野和之、母に左時枝と充実のキャスティング!これだけ脇を固めていながら、主役が光らない映画ってどうしたらいいんでしょう。やはり大物タレントと犬を組み合わせただけの安易な企画といわざるを得ないのだろうか。

ようやく芸人と犬の息が合い始めて、芸人も彼女(広末涼子じゃなくてもOK)とヨリが戻って、番組も人気が出てきた矢先にまさおが病に倒れて、ここからが怒涛の『犬版韓流ドラマ』となる。まさおが病で死んだのは事実なのだが、そこをクライマックスに描くことが本当に必要なのだろうか?個人的な意見かもしれないが、『犬の映画は見たい』けど、『犬が死ぬ映画は見たくない』のだ。

犬を主役にすることしか考えないから、そこに人間側のドラマが産まれなくなるのだ。作品の内容はともかく(それもちゃんと書きますが)アメリカ映画の新作「一枚のめぐり逢い」に描かれる犬と人間の関係は見事の一言。イラク派遣で心に傷を負った海兵隊員は、ゼウスという愛犬だけが友達。ゼウスも彼の孤独の癒やしとなるが、決して邪魔はしないという理想的な関係。このゼウスというジャーマン・シェパードがなんと美しいことか!これでも充分に『犬の映画』なんだけどなぁ。

自分の局の名物番組の名物ワンコの物語をなんだから、ヒットするんだろうという甘い認識では、どんな大物タレントと組む合わせても無理でしょう。むしろ番組のウラ話的なドキュメンタリー(TVもの)とした方がよかったのかも。という具合に、犬の映画がヒットしなくなっているにもかかわらず、この先も堺雅人中谷美紀出演の「ひまわりと子犬の7日間」という実話を題材にした作品も公開が控えている。少しも懲りないのですねぇ。