今週の寅さん② 第2作目「続・男はつらいよ」

結論から先に言うと、久しぶりに見た第2作目、いわゆる続編がこれほど良いとは思わなかった!

この続編の水準があったからこそ、長きに渡るシリーズとなったのだろうと確信出来る1作だ。もちろん前の第1作目で、登場人物それぞれのキャラクターが認知されていることも大きいだろうが、それを生かすも脚本次第。脚本のクレジットには山田洋次小林俊一宮崎晃とある。黒澤組ばりに3人がかりだ。

冒頭は旅先の夢で始まるが、この夢はシリーズのもっと後に出てくる『寅さんのシュールな夢』ではなく、今回の続編の骨子である『母への想い』を表す、一目おっかさんに会いたいと願う寅さんの夢である。風見章子がお母さんと夢ではなっていて、これが後半の伏線となってくる。そしてタイトルバックでの主題歌は、“ドブに落ちても根のある奴は、いつかは蓮の花と咲く”の2番を使用。そうである1番の“俺がいたんじゃお嫁に行けぬ〜”は、さくらがもう嫁に行ったので使えませんよね。

「とらや」の店に居るさくらは赤ん坊(満男!)連れだ。思えば「男はつらいよ」は、この満男が赤ん坊から、立派な大人になるまでを描いた大河作品だったとも言えるんですよねぇ。まさかこの時点では、誰もそうした側面を持つ国民的シリーズになるとは思っていなかっただろう。その店先に寅さんが帰ってくるが、またすぐに旅にでなければならないと言って、さくらに別れを告げるが、行き着いた先は「とらや」とは目と鼻の先の坪内散歩先生(苗字は御前様と一緒ということになる)の御宅。

今回の客演者は、この坪内先生に扮する東野英治郎と、その娘夏子(御前様の娘は冬子でしたね)を演じるのは佐藤オリエだ。なんと坪内先生は寅さんが中退した、葛飾商業高校の英語の先生だ。寅は、その高校の校長先生をぶん殴って退学となっているという設定。夏子は「昼下がりの情事」のオードリー・ヘプバーンのように大きなチェロを抱える音楽家だ。この家でご馳走になっていた寅が胃痙攣で入院してしまって、話が動き始める。

金町中央病院に入院した寅を担当するのが、藤村という青年医師で演ずるは山崎努。黒澤組常連の山崎を、ここでキャスティングするとは!この病院を脱走して、東京にやってきた登(津坂匡章)と焼肉屋で一杯やったが、どちらも金がなく無銭飲食で逮捕と、ここらでの寅さんのやんちゃぶりは凄い、人に迷惑かけっぱなしである。結局、坪内先生に謝って寅は源公を連れて旅に出る。この回での、佐藤蛾次郎演じる源公はお寺の人間ではなく、どちらかと言えば「とらや」の人間。

1ヶ月後、京都で源公と如何わしい『易』の仕事をしていた寅と、京都へ観光旅行へ来ていた坪内先生父娘に再会。寅の京都にいる目的は、幼くして別れた母が『グランドホテル』にいるらしいので探すこと。画面からは青江三奈の「恍惚のブルース」が聞こえる。時代が出てますね!夏子と探し当てた『グランドホテル』は、いわゆるラブホテル。ここで葛飾で芸者をしていて、車平造と出会って寅を産んだお菊と出会う場面がクライマックス!

寅と夏子は、そのホテルで働くお澄(演ずるのが風見章子というオチ!)が母だと勘違いするが、お菊はホテルの経営者で、寅に『なんや、金の無心に来たんか?』と憎まれ口を叩く。お菊に扮するはミヤコ蝶々。まさにこの名場面は、上方漫才(ミヤコ)と浅草喜劇(渥美)の激突とも言うべき火花散る演技合戦で見ごたえ充分!見事な続編に仕上がった要因は、ミヤコ蝶々(この後も母役で出るが)と東野英治郎という二人の老優の名演があったから。

坪内先生に寅が“天然のうなぎが喰いたい”と言われ、なんとか江戸川で釣って持って帰るが、すでに先生の息が絶えているのに驚く場面での、渥美さんの演技はなんと見事なことだろう。1作目でもそうだったが、寅は結構めそめそ泣くのである。先生のお通夜でも泣いているばかりで何も出来ない寅。それを見た御前様に“お前以上に泣きたいのは娘さんだ!男のお前がしっかりしなきゃダメだ!”と言われ目覚めて、葬式を仕切るが、その出棺前に藤村医師と夏子が恋愛関係にあるのを知り、また涙。

今回の大きな笑わせ所は2箇所。母に『金の無心』と言われたショックで、京都の宿で先生父娘を相手に飲んでいた寅が庭に転げ落ちるところ。この場面の佐藤オリエはマジ笑いです。もうひとつが葬式から帰った「とらや」一家が失恋した寅のことを話題にしているが、電気をつけた部屋のおいちゃんの後に寅さんいる場面。その時の森川信の表情のおかしさったらない!

ラストが素晴らしい!堅気になった登は郵便局員、その登に『寅さんから便り来ませんねぇ』と言わす。そして夏子は天国の父に、新婚旅行で行った京都で寅さんとお菊が一緒のところを発見したことを報告するのだった。最後の場面は、春の京都を仲良く歩いていく寅とお菊、それを見送る新婚の二人。なんと優しく、鮮やかなラストであろうか!これだったら誰でもすぐ次が見たくなるぞ!!

では、来週は第3作「男はつらいよ フーテンの寅」です!