エミリオ“親孝行”エステベスと呼ぼう!

今や死語に近い言葉であるが、80年代に活躍した若手俳優を総称して『ブラッド・パック』と呼ばれていた。その中の代表的存在の一人がエミリオ・エステベス。「ブレックファスト・クラブ」や「セント・エルモス・ファイヤー」は本当に魅力的でした。しかし、意外と映画史で抜けがちなのが、彼が監督としても、実績をちゃんと積んでいるということです。この「星の旅人たち」は監督6作目です。

87年に「ウィズダム/夢のかけら」で監督デビュー。大人の理解を得られない若者を主人公とし、脚本、主演と3役をこなした。内容は父であるマーティン・シーン出世作でもある「地獄の逃避行」に倣ったような、男女二人のロード・ムービーだった。監督2作目の「メン・アット・ワーク」では弟であるチャーリー・シーンと共演。彼の映画製作がファミリーを基本としていることが確認出来る最初の作品だった。「THE WAR 戦場の記憶」という未公開作で、初めて父と組んで映画を作ったが、この作品がどんな内容かは未確認。

同じく未公開ながらDVD発売となったので確認したのが、弟チャーリー・シーンと兄弟役で共演した「キング・オブ・ポルノ」。監督と主演したエミリオとチャーリーが演じたのが、実際の兄弟であるミッチェル・ブラザース。知る人ぞ知る70年代の名作ポルノ映画「グリーン・ドア」を作った二人の伝記映画だ。いわば裏「ブギーナイツ」で、ロスが地元のエミリオならではの映画業界の裏面史で興味深い1作だった。そして、前作「ボビー」ではロバート・F・ケネディ暗殺の裏側で蠢く人間群像劇を、まさに人脈をフルに使ったようなキャスティングで楽しませてくれたのだった。

父、マーティン・シーン(本名ラモン・エステベス)主役に据え、長男エミリオが本当に良い映画を撮った。それが「星の旅人たち」だ。スペインへ巡礼の旅に出た一人息子ダニエルの死を知らされた、カリフォルニアに住む眼科医トム・エイブリーが、息子の亡骸を引き取りにフランスのはずれの巡礼のスタートとなる街へ行くが、なんとそのまま息子の残したリュックに息子の遺灰を入れ、巡礼の旅に出るという物語。あとは、ひたすら“道”(原題THE WAY)を行くトムと、彼が道中で出会い、一緒に旅する面々との触れ合いを描くだけなのだが、それがなんともイイのだ。

『ロード・ムービー』はイコール車の旅の映画とカテゴライズされてしまうが、これは本当に歩くロード・ムービー。フランスとスペインの国境の町から、サンティアゴ大聖堂までの800キロの旅だ。そこにカナダ人、オランダ人、アイルランド人、そして旅の途中で出会うジプシーと、息子が体験したがっていた『世界を見る』ことを体験する父。ところどころで息子のダニエルの亡霊を見る。そのダニエルを監督のエミリオがサラッと演じていて、実際の親子である本物の空気感を画面に醸し出す。

息子の遺体を預かっていたフランスの地元警察の警部役でチョッキー・カリョが出ていて懐かしい!80年代から活躍している俳優(95年には「007ゴールデン・アイ」と国際的に)に出会えるというのは嬉しいものだ。「ボビー」でもそうだったが、監督のエミリオが役者であるからだろう、キャスティングのセンスが良いですな。カナダ人女性に扮するデボラ・カーラ・アンガーもクローネンバーグの「クラッシュ」で一躍注目されたのが96年である。別に旬な俳優を使うんじゃなく、本当に役にあった『顔』のキャスティングだ。

巡礼の意味だとか、意義だとかは若干、日本人にしてみるとわかりづらい部分もあるのだが、その旅の風景を見ているだけでも、充分に楽しい作品だが、やはりマーティ・シーンという役者の素晴らしさを再確認する映画でもある。また、その父に認められたくて、頑張って、この映画を撮ったエミリオって、なんて親孝行なんだろう、と感心するのでした。