実話っていうやつには適いませんよねぇ。

詳しく調べたことはないが、印象としてはアメリカ映画って、日本映画より圧倒的に実話を題材にした映画が多いように思う。最近の映画でもレイチェル・マクアダムスの「君への誓い」も、マット・デイモンの「幸せへのキセキ」も実話からの映画化だ。まさに、事実は小説より奇なり、じゃないが映画向きの題材はホントの話のほうにあるのか?逆に言うと邦画は漫画か、本屋さん大賞が目立ちすぎるのだが…。

ソウル・サーファー」の内容が『鮫に片腕を奪われた実在の女性サーファーの物語』と聞いて、そんな事が本当にあったのかと驚くと共に、それを映画にするんだぁ、目の付け所がイイと思う一方、商魂逞しいなぁとも思ってしまった。ベサニー・ハミルトンという女性プロサーファーを目指す少女と、事故からの復帰を支える家族や友人たちの感動の物語である。いかにも配給のディズニー・スタジオが好みそうな話だが、純粋のディズニー・ピクチャーではなく、提供はアイランド・ピクチャーズ・グループで、直接製作はマンダレイ・ヴィジョン・プロダクションだ。

内容に飛びついたのが文部省。久々の『文部科学省選定』(昔は『文部省選定』、その上が『文部省特選』だったよなぁ)の宣伝文句を見たぞ。そう言えば、映画が不良のもの(古いなぁ)であった時代でも、学校で行きなさいの指導付きで『〜選定』はけっこうあったように記憶する。かつては5月1日のメーデーの日には、先生たちはデモで忙しく、生徒を映画館に押し込めて、そうした選定映画を見せて午前中の授業にしていたが今はどうなんだろう。「ジョニーは戦場へ行った」は、そうした学校動員もすごくあったと聞いたなぁ。

はっきり覚えているのが(選定か、特選かは忘れたが)「チコと鮫」(1962年度作品)が選ばれていて、その文言を初めて認識したこと。何故か「チコと鮫」は一度もソフト化になっていない不思議な映画だ。当時感動した多くのファンがいるこの映画がDVDになっていないことは、どう考えてもおかしく、権利関係でなにか問題でもあるのだろうか。という訳で、そうした文部省お墨付きの宣伝文句がまだあったんだ、と妙なところで感心。もう文部科学省なんて、そういったことに全く興味がないのかと思っていましたよ。

先日「ファミリー・ツリー」で美しいハワイの風景に感動したのだが、今度はハワイの波だ。サーファーの物語だったら当たり前の風景だが、やはり美しい。でも、そこに突然鮫が現れてガブって怖いですね。「ジョーズ」の謳い文句じゃないけど“貴方は、それでも海に入りますか?”だ。しかし、この映画の主題は事故に遭った瞬間に居てくれた友達のお父さんや、掛かり付けの病院の先生とか、いかに人との繋がりが大切かを描くことなので、海の恐怖はアッサリと描き、ベサニーちゃんはすぐに(事実としてひと月ほどで)海に入れます。

むしろ、何でも一人で出来たベサニーが、片腕になったことで出来ないことが多くなってしまったことを、気持ちと体の両方で克服していく過程が見せ場となる。熱心なクリスチャンである彼女が、南太平洋の津波の被害に心を痛め、ボランティアで現地に行き、海を怖がるようになってしまった子供を海に誘うシーンは感動的だ。このベサニーを演じるのが、期待の若手女優アンソフィア・ロブ。と言っても一般的には知られていないでしょうから、ちゃんとご紹介します。

ティム・バートン監督の「チャーリーとチョコレート工場」でわがまま娘のヴァイオレットを演じた言えば“あぁ、あの子ね”と分かるだろう。デビューは2005年。ウェイン・ワン監督の「きいてほしいの、あたしのこと ウィン・ディキシーのいた夏」だが、この映画20世紀フォックスが未公開としてしまい見られませんでした。DVD出てるから見てみよう。2007年「テラビシアにかける橋」も印象的。こどもの世界のファンタジーものには欠かせない女優となりました。2009年のディズニー映画「ウィッチマウンテン/地図から消された山」では、ドゥエイン・ジョンソンと共演、宇宙に帰りたいエイリアン(人間に姿を変えている)を演じて大変魅力的でした。

この頃の少女は大きく変化し、アナソフィアは現在18歳、もう「ウィッチマウンテン」の頃の面影はなく、この映画でもほのかに恋の予感の場面も演じられるまでになってます。本当に将来が楽しみな女優で、このまま行けば、同じ子役出身ということで、ナタリー・ポートマンを目指せるでしょう。とは言え彼女一人で映画は出来ないのは当然。ここで重要なのは両親役のキャスティング。父親役にデニス・クェイド、母親役にヘレン・ハントと絶妙な配役で映画にグっと厚みを加えていますね。

実話の映画化って言われても、意外とプロットだけ頂いたものがあったりする。しかしこの映画はラストのクレジット画面に、兄弟(二人の兄)が撮った実際の映像が流れ、それを見る限り全く劇中の場面と一緒なのだから、こりゃ、全部実話だと納得するのだった。