マット・デイモンも親父役を演じるようになったかぁ

どうやらアメリカは映画を通して、もう一度父親と子供との関係を見直そうとしているようである。この「幸せへのキセキ」も「ファミリー・ツリー」も、母親が亡くなり(もしくは亡くなる時)残された父親と子供たちのコミュニケーションの再構築の物語であり、いかに現代の父親が仕事優先で、子供のことは母親任せであるかを表している。奇しくも同じ時期に、同じような題材が登場したことは決して偶然ではなく、今のアメリカを普通に描いたらそうなった、というところだろう。

昨年末にLAに行く機会があり、そうするといつものことながら、新作映画の看板を確認をするのであるが、そこで妙に気になったのが「We Bought a Zoo」というタイトルで、ひと目では誰が出ているのかが分らないポスターで、シマウマがメインのデザインあったように記憶する。よく確認するとキャメロン・クロウの作品だということは分かったが、まさかマット・デイモンスカーレット・ヨハンソンエル・ファニングという魅力的なキャスティングだとは確認出来なかったのだった。

何故かスティーブン・ソダーバーグの「コンテイジョン」を見逃してしまったので、その作品で、すでにマット・デイモンが父親役をやっていたとは知らず、この映画が初の父親役だと思い『はぁ〜、あのウィル・ハンティング少年が父親とはねぇ、時の経つのは早いもんだ』と不思議な感慨に耽ってしまった。しかし、この父親役が中々よろしい。14歳の男の子と7歳の女の子の父親である突撃レポートしている新聞記者役である。半年前に妻を亡くし、長男とは意志の疎通が難しい関係という設定だ。

実話がベースでベンジャミン・ミーという実在のジャーナリストの体験記の映画化だ。原作は確認していないが、もし動物園立て直しをメインに描かれているとしたら、キャメロン・クロウは、どちらかと言えば、妻(子供たちにとっては母)の死を受け止め、一歩踏み出す家族のほうに重点を置いている。そうした家族再生の物語なのだから、後半のある種ハリウッド的お約束のような、スカーレット・ヨハンソンとのキス・シーンは不要との意見もある。

スカーレットの役どころは、ケリーという閉園した動物園の飼育員で、ベンジャミンは動物園のことはすべてケリーと一緒に立て直そうとするが、その過程で恋愛感情(特にケリーの方)が芽生えるという展開。スカーレットのジーンズ姿(現在アメリカ大ヒット中の「アベンジャーズ」の体の線が出るブラック・ウィドーのコスチュームも良いが)も中々魅力的で、この二人の組み合わせは悪くないが、確かにキス・シーンは余計だったかな?

脇のキャストで際立っていたのが、ベンジャミンの兄貴役のトーマス・ヘイデン・チャーチ、相変わらずのダミ声で、最初は動物園経営に反対していたが、最後にはスタッフになるという役で、イイ味出してます。また長男の心を徐々に解きほぐしていく(これは父には絶対できない!)動物園スタッフのひとりリリーを演じるエル・ファニングが益々、大人びてきて、この先が本当に楽しみだ!

結局のところ、よくも悪くもキャメロン・クロウの映画で、画面に(綺麗な映像だ!)被せてくる音楽は心地よいものがある。しかし、ともすればその心地よさが、この物語をあまりにもファンタジックにしている感じもする。実話なのだから、そうなのかもしれないが、お金のことの都合の良さも含め、この映画には良い人しか登場しないし、開園直前の台風もあっさりとやり過ごしてしまい、最後はいささか甘ったるさが残ってしまうのだった。

まぁ、毒っけのある映画を求める、こちら側の偏屈な見方でもあるのだが…。