とりあえず、大ヒットの要因は確認しました。

もしかしたら、本年度の邦画興行成績のNO1(まぁ「踊る〜ファイナル」と「海猿4」次第だけれど)の成績を上げるかもしれない「テルマエ・ロマエ」の大ヒットを誰が予想しただろうか。20億いけば大ヒットのはずが、50億突破が確実ときては『超大ヒット』だろう。という訳で遅ればせながら(現在6週目だと思うが)、そのヒットの要因を探るべく本編を、ようやくに見てみた。

古代ローマ時代の大衆浴場(テルマエ)の設計技師であるシリウス阿部寛)が、現代にタイムスリップして来て、日本の銭湯の良いところとか、最新のユニットバスの技術を、またタイムスリップして古代ローマに持ち帰り、ローマ帝国の繁栄に一役買うという物語。見終わった中年のご夫妻は感想は、旦那は『くっだらねぇ話だなぁ』と言うが、奥さんは『笑ったぁ、面白かったじゃない』と別れた。確かにありえない話であって、そこから見たら旦那さんの意見となるが、娯楽を求める女性の方に受けが良いようだ。

この女性に受けたことが大ヒットにつながった要因である。もちろん原作に知名度もあるし、アニメ化の効果もあったろうが、女性のクチコミほど大きいものはないという久々の例となったようだ。その中に阿部寛の裸も一役買っているかもしれないな。まぁ、それほど笑いの質が高いわけではない。いわゆる古代ローマ人が(当然!)感じるカルチャー・ギャップ(特に風呂関係のみ)が可笑しいだけであるが、実はこの程度がちょうど良い笑いの感覚なのかもしれない。

最大のヒットの要因は、決して日本映画では見ることが出来ないだろうと思われる古代ローマのセットである。海外TVドラマ「ローマ」でも使用されたイタリア最大の映画スタジオ『チネチッタ』のセットを使えたことが成功だ。この画面から伝わる本物の迫力は、グリーン・バックのCGでは絶対に出ないだろう。ラストシーンの広場ももちろんだが、北村一輝扮するケイオニウスとシリウスが相対する階段の場面や、雨に打たれるシリウスを捉えたカットなどは見事である。こうした場面ひとつひとつが、おそらく女性のローマ好き心を大いにくすぐっているのだろう。

このセットに居て違和感を感じない濃い顔キャストの選出も的確で、特に演技がどうのというより、存在がサマになっていたのがアントニヌスに扮する宍戸開だったのが意外だったなぁ。こうなると、あらゆる部分が効果的に作用して、いわゆる『ツボ』にはまったとしか言いようがなく、そういう時の局製作の映画は本当に強いなぁということになる。一方、現代人の平たい顔族(というか老人顔)も竹内力以外は、本当に年のいった日本人顔を揃え、そのギャップでも受けを取った。ヒロインの上戸彩は、スッピンの可愛らしさがあり、彼女のこの役は同性に対する高感度が高いだろう、ここもヒットの要因!

上戸扮する漫画家になりたい女の子、山越真実が寂れた温泉旅館の娘という設定が良い。そして最後には「テルマエ・ロマエ」という漫画を書き上げるというのが容易に想像出来るのも、それで良し。真実の父親に笹野高史、そして母親にはキムラ緑子(ホント脇には欠かせないです!)という鉄板のキャスティングでOK!

では物語に不満がないかと言えばそうではない。決定的なマイナス要因は、主人公であるシリウスがアクションで活躍していないので、カタルシスが生まれないこと。これは身分の違いがあれども対立するケイオニウスを、シリウスの肉体的を使ってギャフンと言わせてのラストだったら、もっと痛快だったのだが、結局、平たい顔と一緒に地道に風呂作るだけと、その部分が薄いのでいささか盛り上がりに欠けるのだった。

『くだらない話』も『面白い話』も、両方の感想があって当然だ。だって漫画からの映画化には、これがついて回るのは仕方がないことなのだから…。そして両方出たということは、この映画化が成功したということになるのだろう。