ベン・スティラーの痛快コメディに拍手!

アメリカ国内では絶大な人気を誇るのに、日本では中々そのコメディセンスが受け入れられず、作品が未公開に終わってしまうことが多い。コメディに限らず、ブラック・ムービーや、ホラーもそうした未公開カテゴリーだが、要するにインターナショナルを相手にせず、ハリウッド側から見てのドメスティックでのビジネスで良しとするものだ。そのコメディのジャンルで主演を果たしているのに、未公開作品が多い男優の代表がアダム・サンドラーウィル・フェレル、そしてベン・スティラーだ。

そのベンがエディ・マーフィと共演したのが「ペントハウス」だが、エディも最近の作品は、日本では未公開に終わっているので、二人の共演作が公開されたことは奇跡に近いかもしれないぞ!でも、この面白い映画が未公開では、日本の映画興行もお仕舞いだ!と叫びたくなるほど、この映画は楽しめる。話のプロットはシンプルだ(だから良い!)。高級ホテルのペントハウスに住む大金持ちに、そのホテルの従業員たちは騙され、それぞれの財産を失う。そこで彼らはチームを組み、大金持ちから金を奪い返すという痛快な展開だ。

今のアメリカの経済事情が反映されているのかは、よく分からないが、常に大金持ちは損をすることがなく、しわ寄せは庶民にやって来る不条理に、映画の中でぐらいは一矢報いましょうというところか。イギリス議会の元議員でもあるジェフリー・アーチャーの処女作にして最高傑作の小説「100万ドルをとり返せ!」(原題名「Not a Penny More, Not a Penny Less」いいですねぇ、1ペニーも多くなく、少なくなく、100万ドルきっちりということです)を彷彿させ、ユーモア満点に描いてみせる。

アクション・コメディを得意とする監督ブレッド・ラトナーだが、これは彼の最高傑作でしょ。製作陣にエディ・マーフィがいるが、この映画の内容では、決して主役に向いていないと彼自身分かっていて、ホテルのマネジャーだったベン率いる、大金奪還チームが助けを求める盗みのプロという役どころだ。実はベン・スティラーが(その才能は認識していますが)いささか苦手でした。彼独特の笑いの間が、どうにも個人的に合わない感覚なのです。しかし、初めてこの映画のラストで“ベン、カッコイイ!!”と惚れてしまいました。

それだけ、このベンはいいですよ!でも他にもマシュー・ブロデリックがいたり、「プレシャス」で一躍有名になってしまったガボちゃん(ガボリー・シディベが正式名!)も出てたり、ケイシー・アフレック、ジャド・ハーシュ、ティア・レオーニなどキャストも魅力的だ。しかし、こうした映画で一番重要なのは『悪役』だ。その悪の大富豪をアラン・アルダが何とも楽し気に演じていて文句なしだ!

現在76歳のアランは、監督としても素晴らしい実績を誇る70年代から活躍する名優。TVでは『M*A*S*H 』シリーズを1972年から、映画では78年の「セイム・タイム、ネクスト・イヤー」から81年の「四季」の監督、主演までと大活躍(もちろん、その後も活躍しているが)だった。ハリウッド映画を見ていて、こうしたリスペクトすべき俳優をちゃんとキャスティングしている映画に出会うと、あぁ、やっぱり分かってくれているんだね、と堪らなく嬉しくなる。

こんな面白い映画が、ベンやエディという日本の興行マーケットでは『難しい』という理由だけで未公開に終わってしまいそうだなんて、なんとも嘆かわしい時代になってしまったもんだ。