こういうアニメが見たかった!

角川映画のパッケージ販売の営業担当者として接点を持った方が、社内の組織変更で企画制作のような部署に移動になったのは、何年前だったろうか?そのN氏から『今、アニメを作っています』と聞いた時は、角川得意のSF少女系かと思って『オヤジには、関係ないなぁ』と勝手に判断してしまったが、新年の挨拶メールで『お待たせしました「ももへの手紙です」ようやく完成しました!』と来て、俄然興味がわいてきたのだった。

スタジオ・ジブリ作品以外に、大人が見るアニメが年に何本あるだろうか?1本あれば良いところだろう。「ドラえもん」だって大人が見ても、充分面白いことは分かっているが、あくまで鑑賞者の対象年齢が大人に向いていない。個人的にはず〜っと「クレヨンしんちゃん」も「名探偵コナン」も見続けているが、やはり観客としての意識はマイノリティだ。

逆に「ももへの手紙」は、大人が大半の観客というアニメで、チケット売り場で(久し振りの歌舞伎町の映画館!)おっちゃん一人の年季の入った映画ファンが“「もも」1枚”と言い放つのだった。あぁ、こういうのが見たかった!そしてN氏には“良いものを作ってくれて有難う、すっごく面白かった!”と連絡しようと思う、お気に入りのアニメ映画となった。

事故で父を亡くしたももと、その母である、いく子は東京を離れ、いく子の故郷である瀬戸内海の島で暮らすため引っ越してくるところから映画が始まる。事故の直前にももは、仕事で約束を守れなくなった父に『嫌い、帰ってこなくていい!』と、わがままな言葉を投げかけてしまっていた・・・。この始まりの構成だけでも映画的作劇がしっかりしていることが分かる。そうした導入部のドラマを整理されたカットで見せていく王道の演出だ。映画の根本はアニメであろうが、実写であろうが“意味のあるカット”の積み重ねですからね。

この映画が面白いと言えるのは、母と娘が父の死から一歩踏み出すまでの物語を、キチンと画で見せる技量と、ユニークなキャラクターの造形、そして美しい瀬戸内の風景という総合的要因があってこそなのである。以上の3要素で作られているアニメの代表こそがスタジオジブリ作品ということになる。そう、この映画は良い意味で、ジブリの影響が色濃く反映された映画である。クライマックスの妖怪たちが嵐の中を突っ走るカットは猫バスでしょう、という部分など「トトロ」第一世代とでも言ったらいいいのだろうか?

そうしたジブリ影響下にあるアニメが登場する度に、口悪い連中は『ジブリの真似』と言い切ってしまうが、映画の歴史の中には、大いなる影響は継承へと進化を遂げるという実例はナンボでもある。最近ではスピルバーグの「戦火の馬」だ。これほど見事にスピルバーグの記憶の中の映画が、場面場面で見られる作品もないだろう。ジョン・フォードであり、デビィッド・リーンであり、「風と共に去りぬ」でもある。塹壕の上を走る馬のカットは、あの馬4頭立てにしたら「ベン・ハー」の馬の撮り方と一緒ですよ、という具合である。そこにスピルバーグの映画愛が溢れているのだ。

「もも」も言うなれば、『ジブリ愛』ありきの映画でいいのだ。ももがサツキで、うみちゃんがメイでいいではないか!だから魅力的なのだ。大人のためのアニメを作るとなれば、根本的には描こうとするものは一緒なのである。そこを読み間違うと“また宮崎駿の真似だ”とか言ってしまうのだが、それが一番恥ずかしかったりする訳だ。

それにしても、驚きは優香だ!なんと見事な声優ぶりでしょうか。この意外性のボイスキャストが成功の要因のひとつだ!そうだアニメの場合は3要素ではなく、4要素まであるのでした!