ラブ・コメディはキャストが命!

天下のワーナー・ブラザース作品でありながら、非常に小さな公開規模でしか上映されなかった「ラブ・アゲイン」は、新宿シネマートで上映されていたことは知っていたが、さすがに追いかけきれず、見逃してしまった。パッケージ発売のタイミングで、ディーラーのための試写が行われ、なんとか見ることが出来た。見れてよかった!面白かった!これぞ、大人が見るためのラブ・コメディだ。もっと際どく言えば、上品なセックス・コメディに出来上がっている。

製作と主演はスティーブ・カレル。彼が扮するのは仕事も結婚生活も順調だと思っている、40代の平凡な男キャル。その妻エミリー役で、映画の冒頭から離婚を切り出すのはジュリアン・ムーア。彼女が職場で浮気をしてしまったのだ。その相手に扮するのがケビン・ベーコン。要するに家庭生活が、全く問題がないと思っていたのはダンナだけで、妻はダンナに魅力を感じなくなっていたのだ。この映画の物語の進め方は、見事なほどスムーズ。これだけの構成の脚本は近年のハリウッド映画では珍しいぞ!

ヤケになったキャルは一人バーで酒を飲みながら愚痴る。そのバーの周りは、イケてる男女がウヨウヨだ。そのキャルに声をかけてきたプレイボーイがジェイコブ、演じるは(なんと、まぁセクシー!)ライアン・ゴズリング。彼がキャルに恋愛指南役を買って出て、40代のイケてるダンナに変身させるという展開だ。ジェイコブは、まずは形からということで、キャルのイケてないファッションを総取っ替えしてしまう。まるで「プリティ・ウーマン」のロデオドライブでの買い物の、中年男版と言えるシーンだ(但し、支払いは自分のカード!)。

そう言えば「プリティ・ウーマン」同様、この映画もロサンゼルスが舞台で、特にこの買い物のシーンは(不動産会社としての)20世紀フォックスのエリアにある、話題のセンチュリーシティのショッピングモールでロケされている。実は昨年末にロスに行った時に、このモールで買い物をしたので記憶に新しく、スティーブ・カレルが立ち往生するカットですぐに判明してしまった。ワーナーは映画を作り、フォックスは場所を貸すという不思議な関係だ。こういったロケ場所が映画を見ている一瞬で分かるだけでも、その映画がより楽しくなってしまったりしますね。

でも、この映画の最大の魅力は、そのロケではなくキャストにある。上記の物語を、それぞれの俳優が見事なアンサンブルで演じてみせるのだ。さらにキャルが初めてナンパに成功して寝てしまった女性は、なんと13歳の息子の学校の先生で、演じるは我らがマリサ・トメイ!このキャスティングは素晴らしい!息子のロビーは妹のベビーシッターの、17歳のジェシカに恋している。しかし、なんとジェシカはキャルに恋焦がれているという複雑な関係。このロビーとジェシカを演じている二人の若手俳優、ジョナ・ボボとアナリー・ティプトンも将来楽しみだ。

複雑な人間関係の頂点は、プレイボーイ、ジェイコブが真実の恋(このパターンは正に王道で、古くは「昼下がりの情事」ですね)に落ちる相手が、なんとキャルの一番上の娘ハンナだ。演じるは将来性抜群のエマ・ストーン。彼女の今年の期待作は、オスカーにもノミネートされている「ヘルプ」だ。娘のハンナと自分が恋愛指南を受けた(それまでのジェイコブを嫌というほど知っているのだから当然)プレイボーイが、恋人同士と知った時のキャルの暴れっぷりが、この映画のクライマックス!

ラストの決着の付け方も上手く、息子の卒業式の答辞をうまく使っている。まあ、ときめく恋に13歳も40過ぎも関係なく、ちゃんと相手の事を思いやって見てなさい、という中年の男連中には、いささか痛いところを突いてくる映画だ。この痛い面白さは大人にしか分からないぞ、若者にはもったない味わいだ。一見すると、こうしたキャスティングは「ニュー・イヤーズ・イヴ」のようなものかと思ってしまうが、ただ居るだけスターの入れ替わりに過ぎない、「ニュー〜」とは大きく違うこと、解りますかねぇ?

ともあれ、この手のコメディは役者が命だということ、よ〜く分かるいい例となる映画ですよ。