オタク愛に満ち溢れた「宇宙人ポール」へ拍手喝采!

大変なことに「ショーン・オブ・ザ・デッド」も「ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン」も見ていないで、突然「宇宙人ポール」を見てしまった!なんという不甲斐なさ!最初の2作品の評判を聞いてはいたが、何か好みでない“おバカさん”コメディで『笑えない』で終わるんだろうという、勝手な先入観があったのだ。サイモン・ペッグニック・フロストのコンビに謝ります。

サイモンは、トム様に見込まれて「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」にも出ているので、もうイギリスのオタク映画のアイコンではなくなった感があるが、この映画は、そんなメジャー感なぞ、どうでもいいとばかり『オタク愛』に溢れた愛すべき小品となっている。そもそもユニバーサルは、かつて「スタートレック」オタクに拍手送った「ギャラクシー・クエスト」を発表した実績のある会社で、“またやってくれた!”(製作はワーキング・タイトルだが)なのだ。

この作品でリスペクトされ、登場した映画を数えたら、どれぐらいになるのだろうか?もう、ファースト・シーンから「未知との遭遇」で、ドアの向こうの光を見つめる少女のカットにヤラれてしまう。実は、それは1947年の出来事。そこから60年の時が経ち、コミックオタクのイギリス人二人がアメリカはサンディエゴのコミコンツアーにやって来る。SF作家クライヴとイラストレーターのグレアムだ(売れてはいない)。二人はキャンピングカーで、UFO遭遇の聖地“エリア51”に向かい、そこで宇宙人ポールに出会うお話だ。

要するにロードムービーで「E・T」を語り、出会った宇宙人ポールは、政府の役人に追われている設定で「メン・イン・ブラック」となる。宇宙人ポールは、すでに60年間政府の施設に囚われていて、そこから逃げ出し宇宙へ帰ろうとしているのだった。ポールはあらゆる宇宙の情報を政府に提供していたという設定が秀逸で、そこからアイディアを貰ったスピルバーグ(こういうのが本当の特別出演というのだろうなぁ)は、せっせと映画を作っていたという件は爆笑ものである。

「E・T」さながらの、傷ついた生命体を蘇らす宇宙人のパワーの使い方が『泣かせる』ポイントで、この映画を単なるコメディで終わらせていない要素だ。寂れたモーテルを厳格な父とやっている娘が途中から加わり、彼女の片眼を直してみせる場面はグっとくる。しかし、厳格な父から開放された彼女は、やたらとダーティワードを使い、奔放になるというオチも用意されている。もっとグっとくるのは、ポールが寄り道させてくれと言った場所での事。

そう、彼が60年前に宇宙船を墜落させ、その後の人生に迷惑を掛けた少女(今は老婆)の元へ、謝りに行くシーンには泣かされる。このポールは車寅次郎かと思わせるほど、人情味あるキャラクターだ。声を担当したのはセス・ローゲンというピッタリのキャスト。老婆は「未知との〜」のロイ・ニアリーのように、ラストは宇宙船に乗り込んでしまうのだった。その宇宙船の当着地点がなんと(これまた聖地)デビルズ・タワーという用意周到さだ。

オタクの集いの会場から、本物の宇宙人と遭遇と帰還、その話を執筆というパターンは、ドゥエイン・ジョンソン主演の「ウィッチマウンテン」でも描かれてるいるが、いつもながら海外のオタクパワーには感心させられる。そしてシガニー・ウィーバーの出演こそ、オタク愛ムービーの先輩格「ギャラクシー〜」にもリスペクトしていますという律儀さだろう。ここまで来ると、もう拍手喝采しかないではないか!