「源氏物語」はヒガシの映画だった!

改めて『源氏物語』という題材の映画化って難しいものだなぁ、と思わせたのが今回の角川製作の「源氏物語 千年の謎」である。野球に例えると、決め球の変化球が曲がりすぎてボールになってしまった、というところだろうか。それだけ、この映画はユニークに捻った「源氏物語」で、主人公は光源氏ではなく、その物語を書いてゆく紫式部ではないか。その式部が書き上げた物語が(簡単に言うと)劇中劇として映像化となった中で、生田斗真くん演じる光源氏が登場するという設定である。

平安時代紫式部は者藤原道長に命ぜられ、帝が自分の娘に向くような物語を書くよう命ぜられる。要するに恋愛小説に娘を感化させ、帝と結ばせ実質的な最高権力者になる野望のためであった。その物語こそ『源氏物語』。映画は物語を語る式部と、物語の中の光源氏を交互に映し出す。そのうち宮中の女性を夢中にさせた光源氏が一人歩きを初め、式部の筆がどこまで行くのか、というサスペンスになってくる。

ファースト・シーンは現実の世界の藤原道長と式部の逢びきの図からだった。そこからすでに、『この映画っておかしいぞ?』と思わせる。そう、藤原道長役の東山紀之の圧倒的存在感の前に、映画そのものが彼のものになってしまっていたのだ。ジャニーズ事務所の実質的TOPのヒガシさん(相談役のようなマッチさんがいるが)が、後輩俳優の生田斗真君のために脇で映画を支えているのかと思いきや、場をさらってしまっているのだ。

幸い、二人は現実と虚構と区別されているので、同一画面で演技的に“殺し合う”ことはないが、画面の締まり具合が違うとしか言いようがない。しかし、これは時代劇をやりなれている部分も含め、斗真君の不利は当然で、そのように見えてしまうのは、監督の制御力不足で、ヒガシさんのせいでもないだろう。時代劇をやりなれているという部分(もっというと平安貴族の時代)での、大きな問題は、斗真君以上に女優陣にあった。

式部役の中谷美紀をはじめ、真木よう子田中麗奈多部未華子芦名星蓮佛美沙子と豪華な女優たちであるが、中谷以外、この時代劇そのものと合っていないと言わざるを得ない。十二単が違和感バリバリなのである。ちゃんと映画に溶け込んでいたのは、室井滋と大ベテラン佐久間良子(この特別出演には驚いた!)だったのは流石だが、要するにこの映画は、この女優陣のキャスティングで良かったのか?ということだ。

『物の怪』の時代(陰陽師安倍晴明もちゃんと登場、演じるは窪塚洋介)とは言え、田中麗奈の嫉妬に狂っての妖怪の姿は可哀想だぞ!もっと悲惨は多部未華子、この役は難しすぎる。二役をこなす真木よう子も荷が重い。また彼女は十二単より、「龍馬伝」のおりょうさんの様な姿の方が魅力的でしょう。「平清盛」からのイメージだが、この禁断の恋は檀れいに演じてもらえば良かったのでは?

とは言え、東山紀之は全く惚れ惚れする時代劇役者ぶりで、益々板についてきた。今回は貴族の役なので、立ち回りはないが、藤沢周平原作の「山桜」と「小川の辺」2本の時代劇で、彼の殺陣の場面を見たとき、その腰の座り具合と軸のブレなさに驚いたものだ。そう、ダンスで鍛えている肉体にはチャンバラがよく似合うのだ。

映画でもTVでもいいが、やがて彼にはぜひ眠狂四郎を演じてもらいたい!その円月殺法を見てみたい!