「リアル・スティール」は良くも悪くも現代のハリウッド映画なり!

ハリウッドが企画力を失って久しいが、それでもシリーズものではない新作を生み出さねばならない。そこでスタジオは、なんとか過去の名作群をほじくり出して、そのエキスと少しずつ頂きながら、映画として仕立て上げている。その好例となってしまったのが「リアル・スティール」だ。但し、一般の観客には、充分にハートフルな感動作として響いて、面白いハリウッド映画と受け入れられている側面もある。要するに「リアル・スティール」こそ、今のハリウッド映画そのものと言わざるを得ないのだ。

昔から映画を見ているファンには『ボクシング』+『父と子』というだけで“あぁ、これって「チャンプ」なのね”となるだろう。その「チャンプ」自体も2作あり、1931年のウォーレス・ビアリー&ジャッキー・クーパーによるオリジナルと、1979年にフランコ・ゼフィレッリ監督でリメイクされた、ジョン・ボイト&リッキー・シュローダー(本当に男の子役は消えてしまうなぁ)版だ。

実は、79年版「チャンプ」が好きじゃない映画の1本だ。『お涙頂戴』のあざとさが見えてしまった映画って、こんなに嫌なものかと初めて思ったものである。まぁ、ちょうど二十歳すぎのヒネくれた映画青年には、全く合わなかったということだ。もし、中学校あたりで見ていたら、素直に感動していたかもしれないが、ともかくリッキー・シュローダーの、今の芦田愛菜以上の大人顔負けの、泣きの演技に白けてしまったのだった。

という訳で「リアル〜」も「チャンプ」パターンの、父子のお涙頂戴展開になったらダメだったろうが、そこはハリウッド、「チャンプ」より知名度がある「ロッキー」の方に持っていきやがった!それも「4」である。「ロッキー4」でブリジット・ニールセンが強い印象を残したキャラクターの『ロシア系の女ボス』まで丸ごと登場させてしまっているではないか!そして会場の声援を“ロッキー”から“アトム”に変えれば一丁上がりだ。

最近のハリウッドは、ひとつの物語では、興行的に不安に駆られるようで、「SUPER8」のゾンビ+エイリアンを例に取るまでもなく、核となる物語をふたつ用意する。「リアル〜」は「チャンプ」の話にロボットを絡ませせてきた。『旧式ロボット』の名前がATOMで分かるように、ここには手塚治虫に対するオマージュがあるが、ATOMの造形はどこかジブリ的。そして「ロッキー4」での“イワン・ドラゴ”に当たる最新型ロボットは、明らかにガンダムである。ここにジャパニーズ・カルチャーの大きな影響力を感じ、また積極的に取り入れているハリウッドを見るのだった。

近未来の格闘技という点では「ローラー・ボール」まで感じさせ、どんなツッコミにもSFだからでOKとする。好感度が高い部分としては、放浪の連戦(この部分は「マッドマックス2」「3」だなぁ)を父子が戦って勝っていく過程が、西部劇のテイストで描かれているところだ。主演のヒュー・ジャックマンは「オーストラリア」でも、カウボーイだったことでも分かるように、西部劇臭がする役者ですからね。そのアナログ(カウボーイ)ボクサーと、デジタルリモコン操作ボクサーとの対比となるクライマックスこそ「ロッキー4」そのものというオチだ。

以上が「リアル・スティール」という映画を形作っている(もっとあるかもしれないが…)パーツの数々だ。このように、突っ込めば“どこにオリジナルがあるんじゃ!”となるが、今のハリウッドはこの辺が限界だろう。あとは役者個人の力量に頼り、今回はダコダ・ゴヨという天才子役(このフレーズも嫌いだなぁ)に負うところが大きい。またオヤジ的にはエヴァンジェリン・リリー(TV「LOST」出演)がエエなぁ。彼女はピーター・ジャクソン期待の新作「ホビットの冒険」にもキャスティングされているので、TVから映画へのステップアップ女優の中の注目株だ!

結局スタジオは、このレベルでの成功なら良しとするだろう。そして、もっと大掛かりな特撮を用いて続編製作してしまおうと考えるかもしれない。その時は、どの名作からのエキスを頂くのか、逆に楽しみである。