アイ・ラブ アン・ハサウェイ様

いかにもディズニーのお姫様ストーリーの典型だった「プリティ・プリンセス」(2001年)で映画デビューのアン・ハサウェイを見たとき、『このお姫様役のみで終わる女優なんだろうなぁ』という感想が正直なところだった。その後、「プリティ〜」は続編(2004年)もあり、そこでも彼女はディズニーの枠内の女優であり、可愛いけど魅力的とは言い難かった。

その評価が一変したのが「ブロークバック・マウンテン」(2005年)だった。同年に未公開に終わった、DVD発売タイトル「アン・ハサウェイ/裸の天使」という青春群像劇のドラマでもそうだったが、あっさりと脱いでくれているではないか!何もヌードのなることが評価アップのすべてではないが、仮に日本の女優に置き換えれば、お姫様女優でデビューしたのなら、決してそのイメージを崩さず、脱ぐなんて論外であろう。ところが、彼女は可愛らしい顔に似合わず、こちらに勝手な判断だが、役のためなら既存の自分のイメージを壊すことは厭わない、役者魂の持ち主だったのだ。

演技者としてキチンと評価された代表作は、オスカーのノミネートをはじめ数々の賞の対象となった「レイチェルの結婚」。アメリカ映画得意の壊れた家族のドラマだ。アンは姉のレイチェルの結婚式に出席するために、実家に帰ってきたキムという妹を演じる。キムは薬物依存で入退院を繰り返す、バックマン一家には厄介者の娘。家族との確執に悩みながらも、それを素直に表すことができないという、難しい役どころだった。

もちろん最も魅力的な役の映画は「プラダを着た悪魔」であることに依存はない。現在のハリウッドが製作する数々のガールズムービーのお手本で、お仕事系女子のバイブル映画だ。この路線は(出来はともかく)歌と踊りという形に変わって、クリスチーナ・アギレラの「バーレスク」に受け継がれ、いわゆるプチサクセスストーリーが『鉄板の題材』だということを証明したのだった。

実は新作の「ラブ&ドラッグ」も、その「プラダ系」の(こういう言い方は好きではないが)ラブコメ映画だと思っていた。そこに際どくセックスの話題も盛り込み、彼女のサービスカットとしてのヌードシーン(ちゃんとバストトップを見せているということ)をご用意しただけの、お手軽映画と思っていた。ところが予想は見事に裏切られた。もちろんジェイク・ギレンホールを相手にした、激しいラブ・シーンと、出し惜しみしない裸身の美しさは期待通りであったのだが、物語自体はビターなもので、なるほどあのエドワード・ズウィックが監督するはずだと、納得するシニカルな題材だ。

その題材とは『パーキンソン病』。日本より欧米での発生率が高い難病で、映画業界ではマイケル・J・フォックスが、スポーツ業界ではモハメド・アリがかかったことで知られた病気だ。要するにこの映画は、最初は体だけの関係だった恋人が、本当に大事な人になった時、その恋人がパーキンソン病だったら、どこまで面倒みる意志が貴方にありますか?と問いかけているのだ。

アン扮するマギーは若年性パーキンソン病であるが故に、セックスフレンドは作るが、恋人関係にはなりたくないと考えている女性。ジェイク扮するジェレミーは本当に女性を愛することはしない、体だけの関係を求める、ファイザー社のセールスマン(やがて彼はバイアグラを最も売ったセールスマンとなる)。彼女の症状が第一期で軽く見えたため、付き合い方を軽く考えていたジェレミーが、パーキンソン病の本当の姿を知る後半が、予想したラブコメとは全く違う展開。その病気の本当の症状を知ることが、彼女の(今まで自分はしてこなかった)本当の姿を知ることと一緒で、彼女を本当に大事かどうか、迷うところが最大の見どころなのだった。

ジェイクも、「マイ・ブラザー」(これは素晴らしかった!)以後は、ここのところ「プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂」や「ミッション:8ミニッツ」(製作順は「ラブ&〜」の方が先だが)など、演技力以前に派手な映像優先の作品に出ていて、もったいないなぁと思っていたが、この後半の演技は見応え充分なものだった。ただ、ひとつだけこの映画に対する文句を言わせてもらうなら、ジェレミーの弟の役柄は、はたして必要だったのか?この役は、この映画の品位を下げていまいか?お下劣以外の何物でもあるまい。残念である。

とは言え、今年もアン・ハサウェイには注目だ。なんたって「ダークナイトライジング」の、キャット・ウーマン役が登場するではないか!まあ、考えてみれば秋本鉄次大先輩に負けずに、映画は女優で見始めたのだから、追いかけるのは当然。基本は金髪であるが、アンはアンジェリーナ・ジョリー共々金髪でなくても許せる数少ない存在なのでした。