女優魂の塊、大根仁監督に拍手!

漫画の原作からTVドラマ化になり、テレビ東京の深夜番組として放送時に結構話題となった「モテキ」がDVD化された時に、この作品の演出を手がけたオフィス・クレッシェンド所属(取締役ってホント?)の、大根仁監督が発売記念でインストアイベントを行った。仕事柄、こうしたインストアイベントは、かなりの頻度で見学させてもらっているが、大根監督のその会話の面白さには驚いた。

映画監督の中では(大根監督はこの時点では、まだ本編は撮っていなかったが)アルタミラ・ピクチャーズの周防正行矢口史靖の二人の監督が、いわゆる『話しても面白い監督』の代表だと思っていたが、この大根監督も相当にユニークで面白い(話も込みで)。なぜなら、まったく自分をさらけ出すことに照れを感じていないのである。自分の作品でしか自分を語ることの出来ない映画監督もいるだろうが、大根監督は作品以前の段階で、まず自分の趣味嗜好を語っているのだった。

そこから分かったことがある。この人は自分と同じ嗜好の持ち主だということだった。それは女優さんが大好きということ。更にいうと巨乳、美脚も大好き。その美脚がストッキングに包まれていれば、なおOKという、男性として健全なプチ変態性も兼ね備えている兄ちゃんなのだ!実はこの才能(?)こそが「モテキ」を大ヒットに導いたのである。

モテない童貞青年が、ほんの一瞬だけモテまくるという恋愛ファンタジーの基本は、彼に言い寄る女子の質の高さだ。TV版では満島ひかり菊地凛子野波麻帆松本莉緒の4人が相手だったが、映画版は長澤まさみ真木よう子麻生久美子仲里依紗と相成った。この女優陣に監督が思い描く女子像を見事に投影させて、映画は大成功となった。

何が凄いって、初めて長澤まさみにを、巨乳と美脚の持ち主としてカミングアウトさせた事。彼女に美脚は周知の事実だが、映画の中で彼女を『巨乳』として扱うことは(事務所的に?)タブーだったのだ。しかし大根監督は堂々と“巨乳じゃん!”と言い切り、男性ファンなら誰しも、森山未來の右手になりてぇ〜と思わせるカットまで入れているではないか!

また一般市販はないとされている、童貞青年の心の友『TENGA』の宣伝Tシャツ(プリントされている文句は『LOVE ME TENGA』、そう、エルヴィスのもじり!)を長澤に着させるという暴挙に出たカットには、大爆笑してしまった。見ていた観客には、このコアなギャグが伝わらなかったのか、笑い声は自分のみだったので、逆に恥ずかしかったぞ。観客の中の童貞青年たちよ、ここは笑い声を立てるところなのだぞ、監督のために笑い声を出そう!でありながら、東宝伝統の可愛らしさを失わせることなく、最後まで長澤を可愛く撮っている!見事である。

よく映画を観る時、自分はこの映画の中だった、どこに登場するだろうかと考える。自分はリリー・フランキー演じる中年プレイボーイか?NO!とかである。いました!自分は、振られた事を吹っ切り、牛丼を掻っ込む麻生久美子の喰いっぷりの見事さに、拍手を送るオヤジ軍団の一人でしたね。森山演じるモテない青年役に、ほとんど感情移入が出来なかったオヤジとしては、この美しいカットに救われたのでした。そう、最も演技力を要求される、この年上の女性役に麻生久美子を配し、振られたアラサー女子を魅力的に描いてる。

そうしたサブ・エピソードがしっかりしているから、単なる長澤&森山のラブコメに終わっていないのが中々である。一番意外性のあるキャスティングは、仲里依紗のシングルマザー役だろう。ついこの前までセーラー服の少女だった仲を、いかがわしいガールズ・バーのお姉ちゃん役というユニークさ。酔った森山が気が付いたら、また彼女の胸を触りながら寝ているという展開。しかし、この20代前半のお姉ちゃんは、31歳の童貞青年より、ずっと人生の経験値が高いという、70年代テイストと来た!

一方、真木よう子は会社の厳しい先輩女子という鉄板の役柄。こんな先輩女子がいたら、世のM男君は全員KOだな。といった様に監督が考える、ダメ男の理想の女子像の数々となっている。映画そのものは『若者映画』として、もっとトンガッているのかと思いきや、意外なほど(特に後半は)ラブコメの王道だった。ただ主人公の男は、いい気になって麻生久美子に“あんたじゃダメなんだ!”と振ったり、ラストのストーカー追跡劇など、最低の奴だ。しかし監督の描きたいのは『泥だらけの長澤まさみのキス』なんだから、と思えば許せるのでした。

という訳で、「モテキ」はオヤジ的にどう楽しむかと言えば、これはもう女優を楽しむしかないのである。そうした欲望を充分理解してくれて、若者目線の部分以外に、ちゃんと楽しませてくれた大根監督に拍手を贈ろう!