ジョン・カーペンターの復活を祝おう!

最初に「ハロウィン」を見て感心したのは、今から何年前のことだろうか?まさに、そこからジョン・カーペンターという監督と(大袈裟に言うと)付き合うことになるのだが、一部の熱狂的なファンと比べらた、その思い入れは格段に低く、ただ公開作を普通に見ていただけである。だから「ニューヨーク1997」の『あの場面は凄い!』とか、熱く語られると引いてしまったりする。

「ハロウィン」というホラー映画の伝説的作品を作ってしまったが故に、ホラーの監督と言われる。確かにブギーマンの登場は衝撃的だった。「13日の金曜日」のジェイソン、「エルム街の悪夢」のフレディとならんでホラー映画キャラクターの3大巨頭と言えるだろう。しかし、その後の作品である「スターマン」「ゴースト・ハンターズ」などを見れば、要するに職人監督であることが分かる。この普通の職人監督という位置が凄いのだ。

とかく日本の映画ファン&ジャーナリズムは、監督を専門ジャンルで括りたがる傾向にある。ジョン・フォードは西部劇、ヒッチコックはサスペンス、ビリー・ワイルダーはコメディといった按配である。その方が評価の基準値を作りやすいのだろうが、それは大きな間違いである。ヒッチコックぐらい突き抜けた存在は別として、フォードには「長い灰色の線」という大いに涙腺を刺激するメロドラマがあるし、ワイルダーは「サンセット大通り」が存在する(個人的は「サンセット〜」より「地獄の英雄」の方が好きだが)。

この括ることの出来ない様々なジャンルの映画を撮る監督の評価がどうにも低い。一番の例がウイリアム・ワイラーだろう。「嵐が丘」「偽りの花園」などの文芸作は言うに及ばす、「ローマの休日」というラブ・コメディから、「コレクター」というサスペンスまで。または史劇「ベン・ハー」から西部劇「大いなる西部」までと、彼こそジャンルで括ることを拒否した巨匠なのである。ジャンルではなく、純粋に映画そのものの出来で評価しなくてはならない監督だ。

よってカーペンターという職人監督を、ホラーというジャンルで縛ってしまう見方には多いに不満であるし、ホラーで語るが故の過大評価に、嫌悪感を覚えるという訳である。間違ってはいけないのは、だからカーペンターの映画が面白くないと言っているわけではないのだ。傑作SFホラー「遊星からの物体X」のみで評価してはイケナイと言っているのだ。イーストウッドを「グラン・トリノ」のみで語らず、「ダーティ・ファイター」や「ピンク・キャデラック」も込みで語ってこそ、その監督への思い入れということと一緒だ。

さて、新作の「ザ・ウォード/監禁病棟」はどうであったか。ちゃんと始まりがあって、ちゃんと後半に向かってのサスペンスと謎解きがあり、エンディングを迎える。その手馴れた語り口に安心して見ていられる映画であった。ひとつひとつの場面に、後半へ行くための意味を持たせ、理に叶う展開に終始する職人技は見事の一言。これほど普通に画面に身を委ねていれば良い映画は、やはりカーペンターなのであった。

そしてこの映画のもうひとつの魅力は主演のアンバー・ハードという女優。もともとカーペンターは女優選びのセンスは抜群だと思っていた。ジェミー・リー・カーティス、エイドリアン・バーボーカレン・アレンキム・キャトラル、カースティ・アレイetc。そう、決して抜群の美女たちではないが、皆んなして、どこか唆るものがある女優ばかりではないか!残念ながらニコラス・ケイジ主演の「ドライブ・アングリー」を見逃していて、そっちのアンバー・ハードも、かなり唆るという情報も入ってきている。個人的にはもう少しグラマラスだともっとイイのだが、同じ精神病院女子脱出ものの「エンジェル・ウォーズ」の主演のエミリー・ブラウニングよりはるかに魅力的!

何はともあれ、久し振りのジョン・カーペンターの映画を堪能し、その復活に拍手なのでした!