「ピラニア3D」をより楽しむには…

1950年代後半に日活映画で活躍、60年代には主に東映作品に出演して、そのグラマラスな肉体で注目された、筑波久子という女優を知っている人はどれぐらいいるだろうか。全盛期の作品そのものは、見る機会がないのが実際のところなので、その演技している姿を見ている人は、本当に年季の入った映画ファンということになる。

そしてもうひとつ、映画ファンだったら知っていることのひとつは、現在73歳となる彼女のもう一つの顔が、映画プロデューサーだということ。78年に「ピラニア」を製作して、ハリウッド映画を日本人が作ったというニュースが、結構な話題になったのである。当時は75年のスピルバーグの「ジョーズ」の大ヒットを受けて作られた『2番煎じ』の印象が強かった。要するにデカい鮫一匹に対して、数で勝負の恐怖を持ってきたのだ。このアイディアはヒッチコックの「鳥」からですね。

ところが、この「ピラニア」がカルト映画として支持する若い世代の(当時の)ファンもいたのだ。その中の一人だろうと思われるアレクサンドル・アジャ(なんと「ピラニア」が作られた78年生まれ!)が監督したのが「ピラニア3D」だ。続編ではなく「ピラニア」のリメイクだ。アジャは「カサンドラ」もリメイクして「ヒルズ・ハブ・アイズ」として甦らせた実績の持ち主で、「ミラーズ」もそれなりに面白かったと記憶する。

「ピラニア3D」が面白かったのは、単に「ピラニア」を立体映画にして、派手に特撮で作っただけではなく、キチンと前作が作られた時代へのリスぺクトが盛り込まれているところ。70年代後半〜80年代の能天気な青春映画のスタイルである『リゾート地での恐怖』が基本設定でちゃんとあり、その上でホラーのお約束事である“金髪の姉ちゃん達が殺されていく”パターンとなっている。そして出演陣に、さらなる時代のリスペクトを盛り込み、映画ファンをくすぐってくるのだった。

主演のエリザベス・シューと言えば多くの人は「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」(89年)というだろう。また玄人筋だったら「リービング・ラスベガス」(95年)と答えるだろうが、何といっても「ベビーシッター・アドベンチャー」(87年)が一番だ!彼女は外人には珍しい童顔なので、なんと25歳の時にティーン・エイジャー役を違和感なく演っていたのだ。このクリス・コロンバス監督のタッチストーン映画は、未だにDVD化になっていない珍しい作品だ(一度VHS発売のみ)、ディズニーさん、出してくれぇ〜!

シュー以外のキャストがリチャード・ドレイファスクリストファー・ロイドがゲスト的な出演だ。言うまでもなくドレイファスは「ジョーズ」へのオマージュ&パロディだし、ロイドの役どころは古代魚に詳しいという設定の、マッド・サイエンティストの雰囲気の学者。80年代を代表する(シューも出演の)「バック・トゥ〜」でのドクの役柄そのものですね。あとはアジャのホラー仲間なのでしょうか、のイーライ・ロス。しかし男性陣の視線は続々登場する、スプリング・ブレイクの水着美女にいってしまう。でも最後はシューのタンクトップ姿の勝ち、となるのだった。

アマゾンでのピラニアがどうこうの話にせず、なんと人食い古代魚(一応ピラニアの祖先だと)が湖の底の、もうひとつの湖に閉じ込められていて、それが地震で出てきてしまい次々と人間を襲うという話で、アジャの殺人アイディアのオンパレードの後半がやはり見せ場となる。「ジョーズ」のアミティの海岸ばりの、湖から逃れようとする人間のパニック描写が迫力だ。そう、人間が訳も分からず、恐怖に駆られる様を気楽に楽しむのが、こうした映画の正統的な鑑賞方法というものなのだ。

ワインスタイン・カンパニーとしては、もっと全世界的なヒットを望んでいたようだが、そこまでの成績は挙がらず、『続編』を匂わすラストにもかかわらず、次はないのではないかと思ってしまったが、無事製作されるとのこと(アジャではないらしい)で喜ばしい限りだ!