さらば、原田芳雄!「大鹿村騒動記」という映画遺産をありがとう!

恥ずかしながら、実は肝心要の「竜馬暗殺」と「祭りの準備」を見ていないので、本当にデカいことは言えないのだが、原田芳雄(敬称略でお願いします)の出ている映画は、ちゃんと見てきたつもりだ。それは、彼が出演しているから作品を追いかけたというより、映画を普通に見ていたら、いつの間にか原田芳雄がそこに居たという感じであった。それだけいつも彼が映画の傍にいたという証と言えるのだろう。

最初にちゃんとその姿かたちを『原田芳雄』と認識して見た作品はなんだろうと考える。上記2本は見ていないし、「新宿アウトロー ぶっ飛ばせ」は遅れて見たので、最初ではないし「八月の濡れた砂」はテレサ野田しか見ていなかったし、「無宿人御子神の丈吉 」シリーズはノーチェックだった。そうして考えると、結局黒木和雄監督の78年ATG作品「原子力戦争」(「竜馬〜」と「祭の〜」を見ていないので!)ということになる。原発利権戦争に関わる一人の男という役柄だが、劇中の白のスーツが似合っていたことが一番の印象だった。

黒木和雄という監督との共同作業は、この後も続き「TOMORROW 明日」「美しい夏キリシマ」「父と暮せば」という戦争レクイエム3部作(個人的には「紙屋悦子の青春」も加えて4部でもいいと思っている)でも、居なくてはならない存在感を示してくれた。特に日本映画最高のゴースト・ムービー(ネタばれですいません!)と思っている「父と暮せば」の父親役は最高である。

他に、原田さんが欠かせないという監督では、ベテラン組では若松孝二で、「寝取られ宗介」と「われに撃つ用意あり」の2本が忘れられない(「あさま山荘〜」はナレーションのみ)。特に「われ〜」の原田さんが新宿のゲリラ撮影とぴったりマッチしていて、画面そのものがスリリングだった。本当の『主演作』の意味ではこれが一番だと思っているので、追悼上映がもしされたら、まっ先に飛んでいくだろう。

中堅どころの監督では是枝裕和。「歩いても、歩いても」「奇跡」の頑固もののお爺ちゃん役を見事にオファーしたなぁと感心するばかりだ。そして、この「大鹿村騒動記」で最後の主演映画の監督になった阪本順治だ。監督デビュー作の「どついたるねん」から始まった監督と俳優の、いつもお互いを必要とした作品ばかりを作っていたような印象だ。

この「大鹿村騒動記」の堂々の主演ぶりたるや、今年の主演男優賞で、妻夫木も松山ケンイチ櫻井翔も敵わないだろう(でも賞を必要とはしないけど)。阪本順治監督にしか、このキャスティングは出来ないだろう。なんたって原田さんを「亡国のイージス」で総理大臣にしてしまった人なんだから…。

はたして阪本監督は意識していたかどうか分からないが、「大鹿村〜」は映画遺産として語られるべき作品となってしまったようだ。現代の日本映画を支えてきた俳優、現在、その役目を背負っている俳優、そしてこれからの時代の日本映画になくてはならない俳優を1本の映画で見せてしまったのだった。その個性的な役者連中が、それぞれの見せ場を心地よさそうに演じているのだ。こんな幸福な映画があるだろうか?

原田さんをはじめとして、石橋蓮司岸部一徳、でんでん、小野武彦小倉一郎大楠道代。その先輩挌の三國連太郎、実の息子である佐藤浩市(同一画面共演はない)、松たか子、そして、これからの日本映画を託すべき存在の瑛太と、個人的はもっと評価されていいと思っている冨浦智嗣という布陣だ。若き映画ファンの方々、このキャスティングがいかに凄いか分かりますか??とは言え、作品自体はそんな堅苦しくなく、本当に今の日本映画に必要な大人のための喜劇になっている。でも実はこうした作品が出来にくい時代でもあるが…。

長野県大鹿村で実際に300年続いている伝統の歌舞伎を上演する村人たちの、ちょっとだけ様々な過去を抱えて生きる日々のコメディである。ベテランの荒井晴彦がこんな笑える脚本を書くとは意外だが、本当に役者連中をよく知っていると感心する、当て書きのような出来栄えだ。こんな事をいうと不謹慎ではあるが、もし大楠さんが亡くなっても、石橋さんが亡くなっても、岸部さんが亡くなっても、この映画が出演作の代表作として語られるのではないだろうか。それほど見事なアンサンブルなのである。

実はある時期まで、原田さんの演技スタイルが好きではなかった(はっきり言うと嫌いだった)。シナリオに書かれている通りの台詞に、自分の言葉を加えすぎている感じがして(真実は知らないが)、その台詞回しのスタイルが、あまりにも日常会話に近くて拒否反応を覚えたのだった。しかし映画は人間の日常を映し出し、そうした言い回しこそ作品に必要だと思い知った頃(忘れたが)、凄い役者だと分かったのである(遅せぇ〜よ!)。この感覚は松田優作にも当てはまるものだった。

今後の日本映画を見るときに、あぁ、ここに原田さんがいたら、作品に厚みが増したのにと思ってしまうんじゃないかと思っていた。でも「大鹿村騒動記」を見ると、それが次にそう思わせないように、引き継いで行かれるんじゃないかなと、少し安心したのである。よって、この作品を残してくれた原田芳雄に感謝しつつも、『さらば!』と言えるのであった。