アジア頼みのハリウッド映画

「シャンハイ」はワインスタイン・カンパニー製作のれっきとしたハリウッド映画である。1941年の太平洋戦争直前の緊張感に包まれた上海を舞台に、殺された諜報部員の友人であるポール(ジョン・キューザック)が、その殺人事件の謎を追う過程で、暗黒街のボス、ランティン(周潤發)とその妻アンナ(コン・リー)や、日本の軍人タナカ大佐(渡辺謙)などに接触、戦争に突っ走る時代に翻弄されていくという、結構お堅い物語だ。

殺人事件にからむアヘン中毒の女に扮するのが菊地凛子で、これだけアジア勢に依存したハリウッド映画も珍しい。対するアメリカ人役者はジョン・キューザックの他には、個人的にご贔屓な俳優デヴィッド・モースぐらい。その中でも中盤以降、物語の中心人物となるのはアンナで、彼女は日本人に父を殺された過去のあるレジスタンス。その隠れ蓑として暗黒街のボスの妻となっているが、影ではレジスタンス勢力を指揮しているという展開で、殺人事件はどこかへ行ってしまう。

このアンナとポールが惹かれ合っていく設定であるため、結局はこの映画がラブ・サスペンスで、主演はコン・リーということが分かる。アメリカ映画だからビリングのトップはジョンになっているが、どちらかと言えば彼は狂言回し的に、話を進める存在でしかない。まぁ、「SAYURI」「マイアミ・バイス」と堂々たるハリウッド女優のコン(渡辺謙さんは彼女をゴン・リーとアメリカ的に呼んでいた)さんだから、このキャスティングは当然だろう。

なんという素敵なチャイナドレス姿だろう!ハリウッド金髪系に負けない見事なプロポーションに目が釘付けになる。しかしながら、この映画のミカエル・ハフストロームというスウェーデン人の監督、そのコンさんの美しさをもっと舐めるように撮って欲しいのに、カットを割過ぎ!最近の若い監督(50歳だけどね)の悪い癖だねぇ。その辺のテクニックは「ツーリスト」を監督したドイツ人のフロリアン・ヘンケル・フォン・ ドナースマルクのほうが上ですな。彼は本当に綺麗にアンジーを撮ることに注力しましたよ!

でも最後まで見ていると、このミカエル監督の撮りたいのはコンさんではなく、周潤發さんだったことが分かる。終盤のシーンで、雨の中ユンファさんと謙さんとジョンが一瞬の銃撃戦を見せる、その時ユンファさんの手にはショットガンが!なぁ〜んだ、この監督さん(横っ飛びはしないけど)“男たちの挽歌カット”を撮りたかったのね!中盤のキャバレーでの撃ち合いの場面もあるが、その時は『ユンファさんには銃が似合うよね』程度だったが、この最後のショットガンで確信したのだ。

それじゃあ、コンさんを綺麗に撮ろうとしないのも仕方ないか?でもコンさん以上に可哀想なのは菊地凛子さんだなぁ。他のアジアの俳優陣はしっかりと、それぞれの見せ場が用意されているのに比べて、菊池さんの役、台詞ほとんど無いじゃん、出演すべき見せ場どこにもなかったですよ。

この監督がユンファさんで、そうしたカットを撮りたかったように、もっと大胆なアジアンチックな映画にしても良かったと思うのだが、どうやらワインスタイン・カンパニーという会社が変わってきたようだ。オスカーを獲得した製作作品「英国王のスピーチ」同様、これまた真面目な映画なのである。

かつてのハーヴェイ・ワインスタインだったら、この題材をタランティーノにオファーしていたかもしてないな。そうしたら、もっと大胆に周潤發をレジスタンスにして、片っ端から日本人を撃ち殺し、最後はKEN WATANABEの日本刀と対決!なんて超奇天烈な「シャンハイ」が出来たかも?見てみたいかも?

このアジア勢に加わろうとしている次の世代の日本人俳優のトップは浅野忠信かもしれない!「Battle Ship」「47RONIN」と2本も待機中なのである、楽しみだ!