ブルーレイでモノクロ映画を楽しむ

無事53年のお勤めを終えたアナログ放送。デジタル放送に完全移行となり、はたして本当にTVライフが変わるのだろうか?と思いながら映像パッケージに与える影響を考えてみる。アナログ放送より、DVDの方が綺麗、DVDよりデジタル放送の方が綺麗、デジタル放送よりブルーレイの方が綺麗という図式で、みんなブルーレイを見るようになるのだろうか?

実はブルーレイの美しい画質の威力を確認出来るのは、最新の撮影技術で撮られたデジタル映画ではないと思っている。つやつやのデジタルで撮影された素材を、そのままデジタルで再生して綺麗なのは当たり前のことで、そこに感心するものはない。むしろ昔に撮られた映画をブルーレイで見た時の方が、その美しさに驚くのだ。まぁ、それをブルーレイで見ようとする意識があるかという(もっと言えば、過去の作品に興味があるかだ)別な問題はあるのですがね。

ふと、手元にあるブルーレイソフトを眺めてみると、「ハスラー」「サイコ」「イブの総て」「お熱いのがお好き」「荒馬と女」「恋人たち」「切腹」とある。そうです、すべてモノクロの作品なのです。自分としては、このモノクロの映画が一番ブルーレイの威力を確認できると思っているので、こんなのばかり見ているわけである。

かつてビデオカセットの時代、過去のモノクロ作品がビジネスになると知ったハリウッドが、本気を出して各社のクラシックライブラリーをソフト発売した時も、『グロリアス・ブラック&ホワイト』と銘打って美しいモノクロの名作を発売したのだ。これにはファンが飛びついた。日本では発売が難しい、日本に輸入されなかったミュージカル映画を続々発売したのだから堪らない。しかし、DVDの時代になり、その利便性が認められたものの、マーケットが拡大し過ぎたため、ファンに向けたコアな作品がライトな作品群に駆逐され、モノクロのクラシック作品は見向きもされなくなった。

ブルーレイの時代が来るかという以前の問題で、そのブルーレイの美しさこそ、モノクロ作品に最適とハリウッド各社が宣伝しなけりゃダメでしょ。加えて音質の良さも訴えねばならんと思っている。なんたって最初に見たブルーレイソフトが「カサブランカ」であり、そこで画質より音質の向上に驚いた者としては、画が綺麗だけのアピールではもったいないと感じるのだ。ろくな再生システムではない状態で見た「カサブランカ」の、リックのカフェの店内で触れ合うグラスの音がハッキリ聞こえた時には、吃驚であった。

という訳で、大好きな「お熱いのがお好き」を再生してみる。女子JAZZ楽団に紛れて、無事マイアミに来たジョー(トニー・カーティス)とジェリー(ジャック・レモン)はジョセフィンとダフネという名で、女装してギャングの手を逃れている。その楽団のヴォーカルがシュガー(マリリン・モンロー)。ダフネとシュガーが“マイアミに来たのだから海に入ろう!”となる。ここでニヤニヤしてしまったのが、1929年当時の水着を着たモンローの体のラインがハッキリ見えること!不順な動機であるが、ブルーレイならではの再生だ!もちろんステージで唄う彼女の衣装も素晴らしいが…。

ルイ・マルの「恋人たち」も再生してみよう。ここでも女優命で作品鑑賞。もちろん女優はジャンヌ・モロー!暗闇の中(というか月あかりのみ)のラブシーンの鮮明さより、モローの着ているノースリーブから、ほのかに見える腋毛の鮮明度に心奪われる。あぁ、なんという不純な鑑賞動機なんだ!

2作品とも、何年かぶりに見たなぁ。「お熱いの〜」はストーリーは完璧に頭の中に入っていたが、台詞の端々が忘れていて、そこが楽しかった。1959年作品で、1929年のシカゴを舞台にしているが、主役の二人が仕事を探しに、エージェントの事務所にやって来ると、そのエージェントは電話でウィリアム・モリスに楽士手配を依頼している。なんと全米最大のエージェントはこの頃からあったんだ!また、その電話で“ひとりはマラソンダンスでぶっ倒れた”と言っている。最初に見たときには気がつかなかったけど、「ひとりぼっちの青春」で描かれたあのダンスか、と今なら分かる時代考証の台詞に感心した。

こうして古い映画を見ると多くの再発見がある。歳を食うと古い映画を見たくなると、キネマ旬報川本三郎さんが言っていた通りだ。それもブルーレイで見たくなる。次は「切腹」を「一命」の前に見て、武満徹サウンドがどれだけブルーレイで響いてくるか、確認しよう!