ヘレナ・ボナム=カーターが良くてビックリ!

遅ればせながら、ようやく「英国王のスピーチ」を見た。このような大人の映画がちゃんと評価される外国というのは、やはり映画的成熟度が優っていると言えるのだろうか。「パラダイス・キス」のようなティーンムービーがチヤホヤされるのは、どうなんでしょうかねぇ。かつて映画は大人の娯楽であった時代は、遥か遠いものになってしまったようだ。

アカデミー賞では「ソーシャル・ネットワーク」と一騎打ちとなったが、蓋を開けてみたら「英国王」の一人勝ち(作品、監督、脚本、主演男優賞)となった。両方の作品を見てみれば、この結果は至極当然と思える。大人の鑑賞に耐えうる史実に裏打ちされた映画と、性格最悪のガキンチョ同士の私利私欲にまみれ喧嘩映画と、どちらが優れているなんて、比べるまでもなかった訳だ。ハリウッドの良識以前のことで、「英国王」に軍配が上がったのは、当たり前のことだったのだ。

ただ、主演男優賞のコリン・ファースが本当に優れていての受賞かといえば、いささか儲け役かもしれないなぁと感じる。要するに受賞のパターンであるハンデキャップを有する人間像で、精神的弱者を褒めたい(これは「ブラック・スワン」のナタリー・ポートマンも同様)受賞傾向にはまるのだ。とは言え吃音がゆえのコンプレックスを克服してゆく過程は抜群に面白く、共演のジェフリー・ラッシュとの掛け合いは見事の一言。

でも、ラッシュにしても演技的には、これぐらい当然で、むしろ「パイレーツ」シリーズで海賊ヴァルボッサをやっている方が『うまいなぁ』と感心してしまう部分がある(今回の「生命の泉」は特に)ので、男優二人については楽しませてもらったが、“さすがですなぁ”程度だった。

それより、今作で見とれてしまったのは、国王の奥様役のヘレナ・ボナム=カーター!その穏やかな奥様ぶりの癒される役柄の演じっぷりに驚いてしまった。なぜなら最近の彼女が演じる役柄はエキセントリックなキャラが多く、そのイメージが先行されがちだったから、よけいに今回の奥様ぶりが際立ったのだ。

眺めのいい部屋」で登場してきた時の彼女は二十歳そこそこ。可愛らしかった。いかにもイギリスの育ちの良いお嬢様といった風情。「ラ・マスケラ」なんて時代劇ものも、あったなぁ(見たのは俳優座だったと記憶する)。ケネス・ブラナーと付き合っていたのに、オフェーリア役で出た「ハムレット」はメル・ギブソン版(90年)。その6年後にケネスも「ハムレット」を作るが、その時のオフェーリアはケイト・ウィンスレットだ。大女が好きか、小柄な女性が好きかで意見の別れる二つの「ハムレット」だ。

他にも「フランチェスコ」「ハワーズ・エンド」「鳩の翼」など、時代色が強い役柄が多かったが、変わったのは、やはりティム・バートンと出会ってからだろう。「猿の惑星」「アリス・イン・ワンダーランド」など、メイクバリバリで本人と分からぬ役もあり、演技の方も「スィーニー・トッド」に代表される、いわゆるキレたタイプが多かった。

そんな最近のヘレナだったから、よけいに今回のジョージ6世の妻役の落ち着いた演技と、その穏やかな表情が魅力的に映った。実はこんなヘレナを見たかったのだ!なんとか吃音を治そうと奮闘する夫を見守り励ます姿と、やさしい母の姿がさりげなく描かれている。そんな彼女を夢中になって見ていたので、長女の名前を呼ぶ場面で『エリザベス』という声を聞いて、『あ、そうだった娘はエリザベス女王だったんだ!忘れてた!』となったほどだ。

これだけ魅力的な役なのに、残念ながらオスカーは獲れなかった。コリンに主演男優賞を差し上げたのだったら、ヘレナに助演女優賞をあげてほしかったなぁ!