木村大作のDNAだと思いたい!

小栗旬主演の「岳-ガク-」の主人公は山岳救助ボランティアの青年である。これまた漫画を原作とした映画作品で、相変わらず、まずは知名度優先の製作方針は変わらないようだ。ところがこの作品が、通常の漫画映画化作品と決定的に違うところがある。それは漫画より圧倒的に勝ることの出来る『大自然の山の風景』を実写として写し出していることだ。

製作ニュースの段階で小栗と長澤まさみは、ちゃんと山に入って、その中で演技をしているとの情報が伝わってきた。実写の力、特撮処理では決して感じることの出来ない迫力を出すべく、当然かもしれないが撮影スタッフ全員が山に入ったのだ。あれっ、これってどこかで聞いたぞ?そうだ!木村大作初監督作品「剣岳」で敢行された実写にこだわった撮影方法でないか!

山を撮影する『視点』の違いは若干ある。「剣岳」は登っている人間の、そこにいる目線で見た山の風景がメインだった。しかし「岳」は主人公島崎三歩が登って、そこにいる風景をヘリから山全体を俯瞰で捉える映像が見せ場となっている。いずれにしろ、ちゃんとした風景描写がマストだと認識している製作姿勢、それこそ我らが木村大作が残そうとしているDNAにほかならない、そう思いたい!

そんな気概が見える作品なので、好意的に見てしまう。話の内容が人命救助ものだけに、感動ものには当然なっていく分、パターンでがあるが得しているところ。しかし、片山修というTV出身の監督の第2作目で、「阪急電車」の監督と(同じTV出身ということで)比べたら雲泥の差で良いが、映画としてはもっと面白くなっていた筈だ。この後へ期待したい。

脚本側の問題点は、主人公の三歩のキャラクターを更に掘り下げ、もっと彼寄りの物語にすべきところが、久美の比重が大きくなっているところ。漫画の原作がどうかは知らないが、久美ちゃんの成長話がメインでは、やはり躍動感には乏しくなってしまうのである。そこは女性の脚本家の弱点かもしれないが、アクションの中でドラマを進行させることが出来れば、もっとカタルシスが出てくるのになぁと思ってしまうのだ。

配役で感心したのが、山の麓の食堂のおかみさん役に、市毛良枝さんをキャスティングしているところ。実は市毛さん自身が本格的な登山者で、なんとキリマンジェロに登っているのだ。これはまさに「あしたのジョー」に出た香川照之と同様に、映画の題材そのものに対する理解ある俳優のキャスティングなのだった。もちろん彼女の役どころは、三歩や久美ちゃんをやさしく見守るおかみさんで、救助に行くわけではないが、経験者を配役するすることは、確実に画面にその重みみたいなものが反映されるのだ。

きちんと山の雄大な風景をとらえた映像に重なるのが、佐藤直紀のスコア。やや、全体に鳴らせ過ぎの感もなくはないが、画面と音楽の効果で、観客の眼と耳を刺激していることは確かだ。昨年の大河ドラマ龍馬伝」の仕事に続いて、佐藤さんはイイ仕事されていますねぇ。

いまだ決定的な代表作に出会えていない長澤まさみであるが、この久美という役は、今までのイメージに縛られず、今後の彼女の方向性の指針になるような気がする。この山岳レスキューチームは、他の組織に変えることが可能な物語の骨子になっているので、応用が効くであろう。

大好きな、そして今後も日本映画を支えてもらわねばならないと思っている長澤まさみへの期待は大きいのである。