「塔の上のラプンツェル」に見るディズニーの伝統

香港映画を見るときに目にする『中華電影』という文字が表すように、または映画そのものを『電気仕掛けの紙芝居』と言い表すように、正に映画には電気が必要なのである。その電気が足りないという状況が、どれだけ映画と映画館に心苦しい状況であるか、様々な映画の上映にまつわるイベントが中止になっている現状が如実に物語っている。エンタテインメント産業は、幸福な時代というバックボーンに支えられて成立する産業だと実感するのだ。

しかし、映画は時として傷ついた人の心を励ましたり、また癒したりすることも出来る。そうした映画のマジックを信じて作品を発表し続けてきた映画人の代表が、ウォルト・ディズニーであった。そのディズニーのスピリットは、今はスタジオの伝統として継承されて、多くの人々に感動を与える役目を果たしている。

大きな災害を認識した後の、最初のこの映画日記の更新としては、このディズニーの新作アニメを語る事で(自分自身も含め)元気を出していきたいと思います。

本興行前のイベント試写で、吹き替え3D版の「塔の上のラプンツェル」を見ました。吹き替えを担当した中川翔子の中々の仕事っぷりなどは、ここでは置いておいて、久方ぶりにディズニーの王道であり、本物のお伽話を堪能させてくれたことに対して感謝のコメントとしたい。この技はいわゆる『伝統』であり、誰にも(ピクサーでも)真似の出来ないものだと感じさせてくれたのだった。

ディズニー長編アニメーション50作目とのことだが、その作品群を見渡せば、いかにウォルトがお伽話を作品の題材として、選んでいたかが分かる。記念すべき長編第1作目の「白雪姫」がその代表だが、他にも歴史に残る名作として「シンデレラ」「ピーターパン」(これは児童文学かな?)「眠れる森の美女」「リトル・マーメイド」などがある。まぁ、ディズニーが映画化した時点で、すべてお伽話化してしまう部分も事もあるだろうが、ともかく他のアニメスタジオとの差は、誰しも認めるところでしょう。

今回の題材はグリム童話の『髪長姫』。映画ファン的に言うとテリー・ギリアムの「ブラザーズ・グリム」の中で登場するモニカ・ベルッチ扮する鏡の女王。あのキャラクターこそがラプンツェルにインスパイアされたもの。まあ「ブラザー〜」という映画の登場人物たちが、ほとんどグリム童話からの引用で出来ていて、鏡の女王も、当然「白雪姫」の邪悪な魔女との合体キャラ。今回のディズニー版の「塔の上の〜」を見ると、どちらかというと母親に近いんじゃないかと思わせる。

そもそも『髪長姫』はグリム童話の中でも、ディズニーが最も嫌う性的要素満載のお話で、設定自体も、プリンセスでもない単に髪の長い女の子の話で、外の世界に出る意志もなく、更に王子様を長い髪で塔の上まで上げ、自室に招いたあげく、妊娠までしてしまうという、とんでもない展開となるのである。それこそ『本当は〜のグリム童話』なのだが、それではディズニーでの映画化は無理、よって見事な脚色をしてみせた。それはディズニーのニューレジェンドとして語られる「リトル・マーメイド」のアリエルのようなヒロインとし、ガールズ・アドベンチャーの物語にしてみせたのだった。

では、そのお手本となったニューレジェンド、もしくは第2期黄金時代の代表作として知られる「リトル・マーメイド」とはどんな存在なのか?若い方は実感がないかと思うが、ウォルト・ディズニーが1966年に亡くなってから、ディズニー映画は不振の時代を迎えるのである。大雑把に言えば、1970年からの10年間である。その不振から立ち直らせたのが、外部からディズニースタジオにやって来たマイケル・アイズナーとジェフリー・カッツェンバーグの二人だった。その二人が放った起死回生の作品が「リトル・〜」で、その後の「アラジン」「美女と野獣」「ライオンキング」に」繋がるのだった。

個人的な当時のお気に入り作品は「リトル・〜」の次に作られた「ビアンカの大冒険 ゴールデン・イーグルを救え!」で、ディズニー長編アニメの正統的劇場公開用作品としては、唯一の続編だ。しかし1作目「ビアンカの大冒険」が日本では全くヒットしなかったため、この続編は未公開に終わり、ただ一度、第1回ディズニー映画祭で上映されたのみ。ディズニーファンの自慢話の一つに、この映画祭で「〜ゴールデン・イーグルを救え!」を見ることが出来たか、がある。さらに、上映終了後の観客席にいた監督に向かっておきた、スタンディング・オベーションに参加できたか、があるのだ。

話を「〜ラプンツェル」に戻そう。しょこたんには申し訳ないが、やはり原語の字幕スーパーで見たくなった。それはやはり今回もアラン・メンケンの見事なミュージカルシーンが前半にあるから。そして後半はアクション・アドベンチャーとラブ・ロマンス(今風なラブ・コメとも言えるかな)で魅せてくれる。それらを支えるのが手書きのタッチを再現することに成功している最新テクノロジーだ。驚いた!ここまでCGで手書き風味を表すことが出来るとは!初めてテクノロジーを歓迎しようと思うアニメ作品に出会ったのだった。そのスピード感(受け持つはマキシマスという白馬!これは面白い!!)とダイナミックな画面構図に見とれてしまったのだった。

こうした伝統の力に裏打ちされた、誰にも真似できないお伽話としての魅力と、それを表現する最新テクノロジーの融合という画期的な成功を喜びたい。そしてこれがディズニー第3期黄金時代の幕開けとならんことを祈りたいと思います。アメリカでの大ヒット、当然の結果だったのですね!