チャップリン映画の思い出

周防正行監督が奥様の草刈民代さんと作り上げた新作「ダンシング・チャップリン」を舞台挨拶付きの完成披露試写で見せていただいた。全編バレエの舞台中継のような、ドキュメンタリーかと思いきや、前半は演目を舞台にあげるべくレッスンを重ねるダンサー達を追いかけ、いわゆるメイキングで舞台の内側に迫った構成。幕間を挟んで後半が舞台の上のバレエシーンの数々となっている。

ダンシング・シーンがどれだけ凄いかという判断は、バレエ素人なので、公開が始まった時に出るであろう(朝の情報番組系か)コメントに任せるとして、本編を見ながら何を思ったかといえば“あぁ、久しぶりにチャップリンの映画が見たい!”であった。それだけ後半のバレエシーンは、ちゃんとチャップリン映画のエッセンスを醸し出していたのだろう。

あれは、たしか1972年の年の瀬だったと記憶する。東宝東和が『ビバ!チャップリン』と銘打って「モダンタイムス」を皮切りに、チャップリン映画の数々を連続ロードショーしてくれたのだった。この企画は70年代のリバイバル上映の、ブームの頂点のような存在で、当時中学3年生の、映画をかじり始めたばかりの少年には本当に有難かった。そしてこの上映のナビゲーターは当然淀川長治先生だった。TV番組での解説はもちろんのこと、イベント講演などでも先生は大いに宣伝した。

第2弾目の上映は「街の灯」、3弾が「独裁者」、4弾「ライムライト」5弾「黄金狂時代」と東宝系の劇場(東京ではニュー東宝シネマ1(今の有楽座)、旧有楽座、旧日比谷映画)を使っての贅沢なロードショーだったのだ!

73年の夏だったろうか、新宿伊勢丹で行われた『チャップリン展』(名前はさだかでないが)でも先生の公演があり、今は無き新宿プラザ劇場で1本映画を見てから駆けつけた。講演内容は、ほとんどTVやラジオ、本などで、先生がすでに語ったことばかりだった。公演終了後に先生を囲みサイン会となり、恥ずかし気に“これにサインしてください”と出したのが、見てきたばかりの「ゲッタウェイ」のプログラム。先生はプログラムを見て“まぁ、趣味の悪いこと!”と笑いながらサインしてくれました。どうやら先生は、男くさいペキンパーの映画はご趣味じゃなかったようでした。

そんなチャップリン映画にまつわる思い出だが、じゃあ映画そのものはと言えば、まずはその芸の数々に笑い転げているのだが、映画そのものを見終わる段になると、様々なことを考えさせられてしまうという連続だった。「街の灯」のボクシングのシーンに腹の皮をよじらせたのに、ラストシーンの“あなたなの?”の場面になると『もしかしたら眼が見えるようになった少女は、ことの真実を知って、ほんとうに幸せなのだろか?』という思いがよぎるのだ。

目の前にいるのは浮浪者ではないか?この浮浪者に助けられたことを彼女は受け入れられるのだろうか?という複雑な思いだ。ここがチャップリンの凄いところであり、時としてシニカルすぎて困ってしまところだ。その代表作は「殺人狂時代」であり、例の一人殺せば、殺人犯で、100万人殺せば英雄か?の台詞になるのだ。

しかし、その批判精神と人間をキチンと見つめていたからこそ永遠不滅の作家として語られるのですね。

DVD-BOXをどこに置いておいたっけかなぁ