蒼井 優に脱帽でございます!

毎週日曜の朝7:00からフジテレビで放送している「ボクらの時代」が好きで、毎週録画して見ている映画仲間がいる。映画関係者の対談がけっこうあるので、見た後に今週の対談では誰々がこんなことを言っていたなどと教えてくれ、助かっている。先日も李相日、種田陽平蒼井優の対談を見たといって、蒼井優のことを“25歳で、あの落ち着きはないよなぁ”と感心した後、彼女が『地方出身の女の子の役しかこなくなってしまった』と語っていたと教えてくれた。

その時は、対談相手が李監督ということもあり、「フラガール」で演じた福島の女の子についての話だと聞いていた。しかし最新作「洋菓子店コアンドル」を見て、この役についてのコメントだろうと思い直した(新作についての番宣番組の要素もあるので)。それだけ、この映画での鹿児島弁丸出しの女の子なつめを演じた蒼井優は素晴らしい!こんな役を見せられては誰も彼女に都会の女子の役はオファーしないでしょ(映画界はいわゆる型にはまったパターンが好きだから)。

鹿児島から、自分で勝手に許嫁だと思っている男の子を連れ戻すために上京したなつめは、その男の子が働いているはずの有名洋菓子店『コアンドル』にやって来るところから映画は始まる。お約束どおり、男はもうやめていて会えず、行くところがないなつめは男の子が見つかるまでという条件で、アルバイトをさせてもらう。

あとは、この店に来る人々との交流や、店に勤める人々と一緒に彼女が成長していく非常にオーソドックスな展開となる。ようやく男の子を見つけて、そこで初めて彼に、上京する際に振られたことを知り(その辺が鈍感な女の子)、この店しか居場所がないから頑張って働くと、泣きながら言う蒼井の演技は見事と言うしかない。この映画の良いところは、若手女優の中でず抜けた演技力を誇る蒼井優のこうした見せ場が、決して浮いていないという点。

前作「雷桜」では時代劇ということもあって、岡田将生との共演場面がどうもしっくりこなかった感じがして困った。それはおそらく、蒼井には同世代の共演者を配すると、彼女が上手すぎてバランスがおかしく感じてしまうからだ。ちょうど「ソラニン」の宮粼あおいが他の共演者とのレベルが違いすぎて映画そのものが傾いて見えたように。

その点、この映画における共演陣は『コアンドル』オーナーシェフ役に戸田恵子、まっすぐななつめとぶつかってばかりいる同僚に江口のりこ(彼女にしては結構大きな役じゃないだろうか、なんかすごく嬉しいキャスティングだった)、常連客に加賀まりこ、その夫に鈴木瑞穂、田舎のおばあちゃん役は佐々木すみ江と芸達者が揃っているので、どの場面でも座りがよかった。唯一不利なのは、もうひとつの物語を背負った江口洋介だろう。

そう、この映画はなつめという女の子の“逃げない”で成長していく話のほかに、娘を亡くして、キッチンに立つことをしなくなった伝説のパティシエ(江口洋介)の、人生の再生ストーリーでもあるのだ。これまたストレートな展開で共感できる。

監督の深川栄洋は、「半分の月がのぼる空」は残念ながら見逃したが、「60歳のラブレター」でメジャー進出以降、見事なまでの真っ直ぐな演出技法で、大変見やすい映画を連発している好きな監督だ。今年もこの映画のほか、「白夜行」が公開済みだし(この映画についても書かなきゃと思っているが)、この後にも「神様のカルテ」が控えている。しかし脚本重視で、きちっとお話を進めていく演出は、悪く言うと(こういう奴らいそうなんだよな)作家性に欠けるとなってしまう。

その作家性を露骨に出すことなく映画を仕上げる職人技ほど、本来もっと褒められていいのだが、日本はそれを軽く見る傾向にある。こうして立て続けに作品が発表されるということは、制作現場からの信頼は得ているということなのだろう。そこをしっかりと見てあげないと、こういったタイプの監督は可哀想だ。

なんたって相手が蒼井優だからね、目はどうしても演出より演技にいってしまうよねぇ…、はい、脱帽でした!