園子温の猛毒の魅力!

なんだか取り憑かれたように映画に集中している監督、園子温(もう次の作品あるんですよね)の「冷たい熱帯魚」の宣伝文句は“猛毒エンタテインメント”となっている。そう、あきらかに前作「愛のむきだし」から園監督はエンタテインメントをきちんと描写してくれている。これが嬉しい!

小難しい作家の主張や、メッセージがどうの、などは本来は表に出てはいけないのだ。そんなものは登場人物のキャラクターがしっかり描かれていれば、自然と画面から臭ってくるもんだ。今回は昨年度のベストワン映画「悪人」の向こうを張るように、『これが俺の悪人の描き方だ!』とばかりに登場人物すべてが“悪”、女性の場合はそこにエロが追加されてくるのだ。

高額な熱帯魚の飼育に投資する人間を、金を手にした瞬間に殺していく村田という悪党を演じるのは、優しげな中年男性役を得意とする名脇役でんでんさんだ。まずはこのキャスティングが大成功!あのいつもの笑顔で万引き少女の父親の小さな熱帯魚屋の社本(吹越満さんも大熱演!)を共犯者としてしまい、さらに奥さん(神楽坂恵)の体までいただいてしまう。奥さんをマゾだと見抜き犯す場面は、誰も知らないでんでんさんだ!

そこに関わるもう一人の悪党は、筒井という村田の弁護士。演じるは渡辺哲さん(これまた大好きな役者ですね)。哲さんも売れ始めた頃は、その強面が示すようなヤクザか刑事役ばかりだったが、最近は(笑うと可愛らしいから)イイおじさん役が多かったが、ここでは久しぶりの悪い奴を楽し気に演じている。またこの筒井は村田の妻愛子と関係しているのが見どころのひとつ。

主人公、社本の妻役の神楽坂恵は存在感はあるが、演技はこれからの(この前まではグラビアアイドルでしたね)女優であるが、村田の妻に扮する黒沢あすかはの演技は折り紙付き。この村田の妻でありながら、筒井と関係して腹上死させてしまう壮絶な場面は、後半のエロの見どころ。結局、村田と筒井は金でしか繋がっていない関係で、腹上死した筒井も山小屋で処理されてしまうのだ。

その死体の処理が(気持ち悪いけど)、この映画のハイライトだろう。しかし、実際の殺しの場面は意外とあっさり。最近の韓国映画の凄惨な殺しの場面の数々に比べたら大人しいものだ。当然だろう、園監督の描こうとしてたのは、殺す前と後で起こる人間の狂気と欲望であって、韓国映画のような見せ場としての殺し場面のような底の浅さとは違うのだ。

要するに悪に翻弄されていく善人が極限の状態になった時、実は善人の中にも抑圧されていたものがあり、それが解放される瞬間を描いているのだ。追いつめられた社本は村田の妻を抱いた瞬間に壊れてしまうと共に魂が解放され、自分の言うことを聞かない万引き不良娘をぶん殴ることが出来る。その場面はある種の爽快感さえあるではないか!

警察にも追い詰められた社本は村田もその妻も、自分の妻も殺して娘にだけ“これからは一人で生きていけるな”と言って果てる。これを救われないラストと呼ぶなかれ、これぞ抑圧に苦しむ男を解放した、救いのラストシーンなのであった。

よく個性的なキャスト陣という文句で映画を安易に語りがちだが、その文句はこのような映画にのみ与えられるべきじゃないかと思わせる快作である!