『キネマ旬報ベスト10』に思うこと

2月5日発売の2月下旬決算特別号が発売され、2010年度の『キネマ旬報ベスト10』の全貌が明らかになった。当然マスコミ発表した時点で、各個人賞と洋画、邦画のベスト10本は知っていたが、それ以下の順位と批評家それぞれが何を選んでいるかと、読者選出ベスト10はこの決算号でしか分らないので発売を心待ちにしていたのだ。

いつも授賞式でキネマ旬報社の小林社長が言う、アカデミー賞より歴史があるという伝統の力で(100%ではないが)やはりこのキネ旬のベスト10の重みが絶対の意識があり、年度の結果としては信頼に値するのだ。その意識が前提の上で今年度のベスト10を見回してみると、ちょっとした現象に気付いたので書きたくなってしまった。

それは(特に洋画の)読者選出のベスト10と批評家選出の10本との違いだ。実はここ近年の読者の10がなんか批評家とほとんど一緒という印象があった。キネ旬読者の批評家的な見方の強さに(自分も含めてです)、それでいいのかなぁと思うことしばしばであったのだ(あくまで印象ですが)。

ところが2010年度は読者が「アバター」を5位(批評家53位)に選び、以下「瞳の奥の秘密」を6位(14位)「トイストーリー3」を8位(20位)「オーケストラ!」を9位(52位)「マイレージ・マイライフ」を10位(15位)という具合にかなりバラツキが出たのだ。逆に批評家5位の「冷たい雨を撃て、約束の銃弾を」が読者では20位となっているが、これは単純に公開規模が小さいから。全国の読者が見られない状況ではない作品に差が出たことが重要なのだ。

この差は最終的に映画に求めるものの違いから来るのだろう。観客(読者)が求めるものはあくまでエンタテインメントであり、批評家は芸術性の対する評価である。読者27位の「アリス・イン・ワンダーランド」は批評家ゼロという結果がもっとも象徴的か。このバラツキ、実は80年代には当たり前にことであり、この頃のアメリカ映画の面白さを、批評家は受け入れず読者は大歓迎したのだ(1984年批評家33位の「スカーフェイス」は読者9位が一番分かりやすいかな)。

この傾向は今後も続く、いや続いて欲しいのだ。それは何もキネ旬が選んだベスト10を否定することではなく、興行が基本にある読者はそうあるべきなのだ。そしてこのシネコン時代、シネコンで大量に公開される作品がある一方、批評家が試写で見て支持する作品が、実は公開規模が小さいものだったりすれば、こうした読者との差はさらに生まれてくるだろう。そうして初めて全国読者が見られないものを選出していいの?という議論がされればよいのではと思うのである。

そうは言っても「トイストーリー3」を10に入れられない(スクリーン誌は入っている)っていうのは、ないんじゃないの!!